高熱を出したら



春歌には、これから林檎の家に行くと伝え、誰か部屋を尋ねてきたら仕事だと言ってほしいと言っておいた。わかりました、先生に宜しく伝えてください、と言った春歌の頭を撫でて部屋を飛び出す。忘れ物はない、仕事も休みだからちょうどいい、朝まで看病していられる。

車を飛ばして行き慣れた林檎のマンションの駐車場に車をとめる。部屋番号を押すと、掠れた林檎の声。麗奈です、と言うと林檎は今開けるわ、と言ってオートロックが解除された。

部屋に上がらせてもらうと、いつもとは違う、男の人な林檎がいて、どくんと心臓が五月蝿く鳴った。


「林檎、熱はかった?」
「…いや、まだ…」

「駄目じゃない、」
「え、…っ、」


壁に寄り掛かっている林檎の額に手をあてると、明らかに熱くて。


「ほら、布団いって
お粥作るから。…薬も飲んでないんでしょ?」


バレた?と力無く笑う林檎に溜息をついて、もう一度「布団いって」と言うと、林檎ははーい、と返事をして歩きだした。


「っと、」
「ちょ、林檎…!」


ふら、と倒れそうになる林檎に駆け寄ると、大丈夫だよと林檎は笑ったけど、大丈夫には見えない。

「荷物置かせてもらうね

……はい、部屋いこ」
「…え、」


林檎の腕を自分の肩に回す。歩きにくいかもしれないけど支えるくらいはできるから。林檎は少し慌てて、大丈夫だからと離れようとしたが、聞く耳持たずでそのまま部屋まで連れていった。


「お粥作ってくるから、寝てて?」
「…ごめん、」

「いいの、それに謝罪は聞きたくないよ私」


布団を被せて言うと、林檎はくしゃりと笑って「ありがと」と言った。私も笑って「寝ててね」と言えば、林檎は目を閉じた。



高熱を出したら



(寂しくなるって)
(言うよね、)



20130514