翔くんが結構距離のある場所から飛び移るシーン。仲間を助けにいくシーンだ。何度も挑戦する彼だけれど、あと一歩のところで届かない。
監督やスタッフが、やはりスタントでやるしかないか…と諦めがちに話していると、翔くんはまだもう一度やらせてほしい、と叫んだ。
渋る監督に、龍也が話しかけ、次回の撮影に持ち越された。ほら、やっぱり優しいじゃん。
撮影が終わった日の夜。
落ち込んでいる…というか、悔しい思いをしているだろう翔くんを探して廊下を歩いていたら、前方に見知った人を見つけて駆け寄った。
「あーい、」
「…麗奈」
「どしたの?」
「ボクが決めたスケジュール、二人とも破ってるから様子を見に」
「ふぅん?
とか言って、今日の翔くんの話聞いて気になったんでしょ、センパイ?」
口許を緩めると、納得いかないような顔でそんなんじゃないよ、と藍は言った。トレーニングルームに向かうようなので一緒に歩きだした。
トレーニングルームの入口には、トキヤを抜かしたST☆RISHメンバーと春歌が集まっていた。
龍也が監督に翔くんの再トライを頼んだ、と藍が言うと皆少しだけ驚いたようで、次いだ藍の言葉に、不安が過ぎったようだ。無理もない、仲間が「失敗するだろう」と言われたのだから。
「きっと…翔くんは手助けなんて必要ないって言うと思う
だから、見守っててあげてね。それだけでも、心強いはずだから」
私が言うと、当たり前だと言うように皆笑って頷いた。
トレーニングルームで懸命に闘っている翔くんをもう一度見遣り、私はその場を後にした。
「随分、仲良いみたいだね」
「そう?相談してくれたから、それにのっただけだよ」
「…いつもそうだよね、キミは」
「え?」
立ち止まった藍。不思議に思いながらも私も立ち止まる。すっと目を細めて、藍の手が私に伸ばされる。手の甲で私の頬を撫でたかと思えば、藍は私の前髪をさらりと避けて、額に唇を押し当てた。
「…こんなボクでも、キミに対する気持ちは理解できたし、生まれたよ。信じられないけど、ね」
「…藍、?」
「ボクも、譲らないから」
逸らされない目。射抜くような真っ直ぐな瞳に、私も逸らすことができなくて。あと、と口を開いた藍の言葉を待った。
「額へのキスは友情を意味するらしいけど、頬よりもしやすかったからしただけ
ボクの気持ちは、まだ言わないけど、考えておいてね」
離れていった藍は、そのまま私を置いて歩いていった。
額のキスの意味
20130510
藍ちゃんのターン!…にちゃんとなったでしょうか…?