振り向くと、女の子顔負けの美貌の持ち主が、眉を寄せていた。
「りん、ご」
「りんちゃん!どうしたの?」
どうしたの、じゃないわよ!と頬を膨らませた林檎は音也を指差した。音也は、きょとんとしている。
「おとくん、麗奈に抱き着いちゃ駄目じゃない、それに先輩に呼び捨てに敬語なしは、どうなの?」
「あ、えっと…ご、ごめん、なさい」
「林檎、私がいいって言ったの!だから、音也は悪く…」
「麗奈は黙ってて」
突然の低い声に肩がびくりと揺れる。怒ってる。林檎が、普段怒らない林檎が、怒ってる。
「おとくん、たとえ麗奈が許可しても、貴方は後輩で年下なの。立場を弁えなさい」
教師モードが発動したらしい林檎に、音也はたじたじだ。いつもより声が低いから、音也も驚いているんだろう。
わかった?と問い掛けた林檎に、音也ははい、としゅんとして頷いた。
「音也、気にしなくていいからね」
「…ん、」
「林檎、どうしたの。らしくないよ」
「………駄目ね、」
名前を呼ぶと、私を見た林檎ははぁ、と溜息をつく。音也は不思議そうに私と林檎を見て、首を傾げている。
「麗奈が抱きしめられてるの見たら、妬いちゃった」
「え…」
「りんちゃん、まさか」
「…ふふ、シャイニーには内緒よん?」
ぱち、とウインクをして口元に指を近づける。しぃー、と笑えば音也は顔を赤くして頷いた。
「二人は、恋人だったんだね!」
「え?ち、ちちち違うよ?!」
「あれ、そうなの?」
違うからね、と音也に言えば、そっかぁ…と笑って林檎を見る。へらりと気の抜けた笑みを浮かべたままの音也は、口を開く。
「じゃあ俺も、麗奈のこと好きになってもいいんだよね?」
「……はい?」
「おとくんには春ちゃんがいるでしょ?」
「七海はす、好きだけど、麗奈は七海と少し、違う感じで、」
「……本人の目の前で、なんで言えるの、かな」
ぽつり、呟いた。
顔が熱い。不意打ちすぎる言葉に心臓はどくどくと早くて、五月蝿くて。
「…渡さないわよ?」
「俺だって、負けないし」
駄目だ、終わらない気がする。ここにいたら、心臓がもたない気がしてならない。駄目だ、早く翔くんのところに行こう。二人は睨みあっているから、大丈夫。バレない。行こう、
そろそろと足音を立てないように歩きだし、さっと陰に隠れて階段を下り、翔くんの待つ練習室に向かった。
「ってことだから、麗奈」
「覚悟してて…ね、ってアレ?」
宣戦布告、逃走
20130506
なんだろうこの無理矢理感