ケンカの王子様



眠れなくなった、というか。眠かったけど目が冴えた。欠伸一つでない。

起き上がって、キスされた唇を触る。林檎と、キス、したんだ。されたんだ。仕事以外で、キスしたことなかった、のに。ファーストキスではないけど、私にとってはファーストキスのようなものだ。プライベートでキスなんてしたことないんだから。


「…どうしよ」


林檎とは、毎日顔を合わせてるのに。恥ずかしくて、顔見れないよ。寝てると思われてたから、言われたんだろうけど…。はぁ、と盛大な溜息をついていたら不意に鳴り出した携帯。どうやらメールを受信したようで、見れば、林檎からだった。

どくん、


「……バレ、てた?」


メールを開くと、そこには「言ったことも、キスしたことも後悔しない。これからは遠慮しないから、覚悟してて」という内容だった。私が起きていたのに気付いていたらしい。


「うあー……どうしよ」


うーんうーんと唸っていると、コンコン、と扉がノックされた。はーい?と扉を開けると、翔くんが立っていた。手にはオレンジ色の本を持っている。


「翔くん、どうしたの?」
「あ、あの、俺…!」


コレ、見てくださいと言われてパラパラと流し見をしていると、「来栖 翔」という彼の名前が記されていた。


「これ…!」
「出演、決まりました!かなり重要な役で、日向先生との絡みも、結構あって」

「そう、そっかぁ…!
おめでと、翔くん」


素直に、嬉しかった。あまり見てあげることはできていないけれど、こうして私に報告してくれたことが、嬉しかった。そして彼が、憧れだったドラマだ。キラキラと目を輝かせて、その瞳の奥は熱意に燃えていて、相当気合いが入っているんだと伺える。


「私に報告してくれてありがと、すごく嬉しいよ」
「あ、あの…もし迷惑じゃなければ、演技指導、頼…お願いしたくて」

「あは、言い直さなくていいよ?…演技指導も、私で良ければ幾らでも付き合う」


笑って言えば、翔くんはありがとうございます!と頭を下げた。


「じゃあ練習室、行こっか」
「はい!」
「私、着替えてから行くから先行っててくれる?」


わかりました!と翔くんは廊下を駆け出した。本当に嬉しいんだろうなぁ、可愛い。弟がいたらあんな感じなのかなぁ。



ケンカの王子様



(たしか私も出るんだっけ)



20130505