次の日、疲れ果てていた私はまだ夢の中だった。
コンコン、
「はい………あ、月宮先生!」
「おはやっぷー!麗奈まだ寝てる?」
「昨日はお疲れのようでしたから、まだ寝てらっしゃいます」
「そう…中で待ってても、いい?」
もちろんです、と春歌は笑いどうぞ、と扉を開けた。林檎は春歌もいる部屋に入ることに少々申し訳なく思ったが入室し、ベッドの上で丸くなる麗奈を見ては優しく微笑み、麗奈のベッドに腰掛けた。
「月宮先生、何かお飲みに…」
林檎に声をかけようとした春歌であったが、麗奈の頭を撫でる林檎の顔が綺麗で、優しくて、愛おしそうで。まるで愛を囁いているような、そんな雰囲気だった。
春歌は言葉を飲み込んで、コーヒーを注ぎテーブルに置くと、自分の机に置いてあった五線譜と筆記用具を鞄に入れて林檎に声をかけた。
「あの、私…事務所に用事があるので、部屋空けますね」
「あら、ごめんなさい、気を使ってもらっちゃって」
「い、いえ!ゆっくりしていてください」
ありがと、と笑った林檎に頭を下げて、春歌は部屋を出た。
「…キスシーン、あったんだね」
何度も、麗奈のキスシーンは見てきたけど、やっぱり嫌だなぁ。
林檎は眉を下げて笑った。夢の中にいる麗奈には、聞こえていないだろう。
「麗奈、好きだよ」
静かな部屋に響く言葉。それは誰も応えることなく、消えた。
まだ眠ったままの麗奈の髪を撫でて、ぽってりとした唇を指でなぞる。
「ごめん、」
ちゅ、と軽いリップ音。
林檎は麗奈の唇に、自分の其れを押し付けていた。後悔はない、誰かにとられるくらいなら、自分が、奪ってやりたい。
「また来るわね、」
誰に言うでもなく発した言葉。林檎は立ち上がってまた麗奈の唇にキスをして、部屋から出ていった。
「………嘘、でしょ」
いま、いま。キス、2回も。それに、好きって、言った…?寝たふりをしていたから、彼は直接私に言ったわけではないけれど、聞こえたのだから仕方ない。
どうしよう、
彼と私の距離は
(林檎のばか)
20130503
20130504公開