キスシーンの前



これから撮影するドラマは、トキヤと共演である。トキヤはHAYATOとしても共演したことがあったからやりやすい。が、今回は初めての恋人役で、官能小説をドラマ化したものだから濡れ場もあると話題らしい。
私も、濡れ場のあるドラマは初めてだから少し…いやかなり緊張している。このドラマの主題歌に、昨日会議に出た「大人の色気を出した曲」が使われるらしい。普通は、もう曲ができているはずなのだが、このドラマの放送は三ヶ月後である。舞台が夏で、第1話は出会い…春なので先に撮影しなければならないらしい。

なのに、今日はなぜか、早速濡れ場…ラブシーンの撮影をするのだ。役になりきるから、カメラが回っている最中は気にならないが正直恥ずかしい。だって、そんな経験ないのだから。まだ、キスだってしてない。(そりゃあ、今までドラマにも沢山出させてもらってるから、役としてはあるけど、カウントしていたらキリがない!)


「うぅ…どうしよ、」

「どうしたんです?」
「トキヤ、」


具合が悪いんですか?と隣に腰掛けるトキヤは、緊張しているようには見えない。年下のトキヤは余裕なのに、私ときたら…。


「トキヤは、今まで濡れ場とか経験あったっけ…?」
「…初めてですよ」

「じゃあなんで落ち着いてるの…」


はぁ、と溜息をつくとトキヤは私の頭を撫でた。あまりにも優しい其れに、トキヤを見ると彼は優しい顔で笑っていて、どくんと心臓が鳴った。反射的に、俯いた。


「私も緊張してますよ」
「嘘だぁ…」

「…当たり前でしょう
相手が、貴女なんですから」


え、と思わずトキヤを見上げると、心なしか顔が赤い気がする。また、どくんと鳴った。うるさい、


「彼らが見ていますからね、それも緊張します」
「そう、そうなの…皆がいるから余計にさ…わぁ、どうしよ逃げたい」

「貴女らしくないですね」
「だって、初めてなんだもん…仕方ないじゃん」


初めて?と首を傾けたトキヤを私はじと目で見遣りながら口を開いた。


「濡れ場、この世界入って初めてなの。キスだって、今までは軽いものばっかだったし…でも、このドラマ、結構すごいじゃん、台本見たら」

「あぁ…そうでしたね」
「トキヤだから、余計に緊張する」


だって、小さい頃から知ってるんだもん。


「一条さん、一ノ瀬さん!そろそろお願いしまーす!」
「…行きましょう」
「ん、」


まずは、二人が出会って私が演じるヒロイン香奈がトキヤ演じる誠を誘惑する。香奈の色香に誠は魅了され、二人は口づけを交わす、というシーン。


深呼吸して、目の前にいるトキヤを見る。目が合うと、トキヤはふわりと優しく笑った。



キスシーンの前



(やるしかない、)



20130502

うわぁ…どうしてこうなったぁぁああああ…!!!!
次回、キスシーンがあるのでR15とかになりそうです卑猥な用語というか表現が出てきます多分いや絶対。