トレーニング!




まるで猫のようにセシルくんを威嚇する嶺二と、むっとした顔で嶺二を見返すセシルくん。そして私の頭を抱えるようにして抱きしめてくる蘭丸。…これなんてドラマ?


「ちょ、蘭丸…離して」
「うるせぇ、黙ってろ」


蘭丸の後ろからひょこ、と顔を出した藍と目が合う。無事?と声をかけられたので頷くと安心したよう少しだけ口許を緩めた。


「ランマル、いつまで抱きしめてるつもり?後輩達が見てるけど?」


ち、と舌打ちをして離れた蘭丸。藍に手を引かれて藍の横に移動すると蘭丸は嶺二の隣に立ってセシルくんを見ていた。


「愛島、この女に触れるな」
「…ナゼ?」
「どうしてもだ!」


カミュまで口を出してきて、ST☆RISHと春歌はぽかんと口を開けていた。ねぇ、かるたするんじゃなかったの…!


「ワタシは麗奈に触れたい」
「だから、駄目なんだってば!麗奈ちゃんは駄目!」

「アナタ達は触れてる、ワタシも触れたい」

「…そんなにコイツに触りてぇなら、ソイツらに勝ってからにしろ」


ソイツら、とST☆RISHを見遣った蘭丸につられてST☆RISHを見たセシルくんは、頷いて口を開いた。春歌への愛と、私への愛を証明する、と。


「あ、愛…?!」

「お前、七海だけじゃなかったのかよ!」


すかさず翔くんがツッコミ、セシルは当たり前だとでも言うように笑った。いつの間にかトキヤが私の隣にいて、大丈夫ですかと声をかけられる。大丈夫だよ、と答えるとホッと胸を撫で下ろしたトキヤは優しく私の頭を撫でた。


「あ、ちょっとトッキー!どさくさに紛れて麗奈ちゃんの頭撫でないの!」
「…幼なじみを心配して何がいけないんです?」


私はそのときのトキヤの顔を見ていないけれど、後に嶺二から聞いた話ではドヤ顔で勝ち誇った顔だったらしい。トキヤのドヤ顔を見たかったなんて思ったのは秘密である。


「…もういいからさ。さっさと始めちゃってよ…時間の無駄だから」


はぁ、と溜息をつきながら言うとカミュはこのトレーニングの概要を話し、アイドルとしての基礎、現在の力を見るために行うという。
歌ではなくて残念だったな、と鼻で笑ったカミュにトキヤはこういうことじゃなくてもいいのでは、と言おうとしたのだが嶺二に遮られ、次いでカミュの怒号が響き皆黙った。

カミュは春歌に読み札を渡し、それではいきますっ、と意気込んだ春歌の隣に移動した。皆の邪魔にならないためだ。














「すごい…!」
「本当、すごいですセシルさん…」


この2週間程見てきて、翔くんが一番体力もあり足も早いのだが、セシルくんは翔くんよりも早いと思う。動きが俊敏で、野性的だ。

聞けば、春歌の前に現れたとき、ターザンの如く木を伝って飛び降りてきたのだと言う。アグナパレスすごい。


着々と枚数を増やしていくセシルくん。このまま勝ち逃げするのかな、なんて思っていたら「待て!」と真斗くんが声をあげた。


「これは"い"ではない、"こ"だ!」


平仮名は完璧だ、と言っていたセシルくんだが実は完璧ではなかったらしい。"い"と"こ"、"し"と"つ"、"ち"と"さ"を間違えていたらしくお手付きとなり、セシルくんは地に手をついて嘆いていた。



トレーニング!



(次に読まれたのは"う")
(それは木にぶら下がっていた)



20130430