修羅場のよかん



「待ってマーシター!Ms.一条ー!」
「わ、シャイニー驚かさないでよ…」

「麗奈、こっちこっち」


事務所に着いて真斗くんと別れ、社長室の扉を開けようとノブに手をかけたら突然開いた扉。中からシャイニーがぬぅ、と顔を出して、近い、近すぎる。バクバクと心臓が五月蝿くなって胸を押さえる。心臓に悪い。

林檎がこっちよ、と言うので隣に座るとシャイニーはくるくると回り謎のダンスをして椅子に座った。ダンスの意味はなんなのだろう。


「明日、ミーがスカーウトしたアグナパレスの王子がST☆RISHとご対面シマース!」
「…あぁ、セシルくんね?」

「あら、会ったの?」
「さっき寮に向かう途中にね。

彼、すっごい綺麗な声してたよ。みっちり扱いたら絶対いいアイドルになれると思う」

「麗奈のお墨付きってすごいじゃない!
私も早く会いたーいっ」


数時間前のことを思い出して、ははと苦笑する。ただスキンシップが激し過ぎる子だけどね。けど歌うことが自然で、彼が歌っていると笑顔になれるというか。自然と耳に留まって、聴いていたいと思う。


「今日の会議はセシルくんの話だった?」

「お前と林檎の次のシングルの話だ」
「私、麗奈の曲で歌いたいわぁっ」


龍也が言うと、林檎は手をぱちんと叩いて立ち上がった。シャイニーに「いい?いいわよね?」とにこにこして問うと、シャイニーはニヤリといやらしく笑ってぴらりと紙を出した。


「今回のコンセプトは"今までと違うワタシ"デース!!」

「今までと、違う?」

「林檎は今回、女装じゃなく本来のお前で歌うことになる」
「えー?じゃあ私、男で歌うの?」
「そうだ、新しい一面を世間に見せつけて新規ファン獲得を目指す」

「…私も今までと違うことするの?」

「イエース!Ms.一条はぁー!今までの大人しいイメージから一変!

大人の色気を全面にプッシュしマース!」


ガターン、と立ち上がったシャイニーはくるくるとまた回り始め、私のカーディガンをガバッと脱がし、ワイシャツに手をかけた。


「え、ちょ、ちょ、シャイニー?」
「問答無用ーッ!!」

「やぁぁああああ!」


ブチブチ、と嫌な音がして。前を隠して私は床にペたりと座り込む。シャイニーはハハハ!と高笑いをして、龍也に「ミーはこれから他の会議だからババイのバイバーイ」と社長室の窓から飛び降りた。


「あ、有り得ないぃ…」


きっと見られた、いや絶対見られた。咄嗟に隠しはしたけれど、林檎にも、龍也にも下着を見られた。最悪である。色気がどうのとか言ってられない。とりあえず服だ。これしかないのにボタン全部やられちゃったし、カーディガンどっかいったし。(あ、シャイニーが頭でぐるぐる巻いてた気がする)


「龍也、麗奈に私の服貸すから出ててくれる?」
「…林檎」
「なーに?」

「変なことするなよ」


やだ、しないわよ!と笑った林檎に龍也は溜息をつく。自分は他にも仕事があるからこれで解散するぞ、と言って社長室を出ていった。



「麗奈、大丈夫?」
「っ、林檎ぉ…」

「大丈夫よ、チラッとしか見えなかったから」
「大丈夫じゃないよ…!」


これが高校生とかなら「やだもうエッチ」なんて可愛らしく言えたかもしれないけど、もう社会人なのだ。水着姿を見られたのとは違う。


「…でも残念」
「え?」
「ここが社長室じゃなかったら、もっとじっくり見れたのに」


はぁ、と溜息をついた林檎は爆弾投下してにっこりと笑った。それはもう可愛らしく、花が飛んでる錯覚を見せるくらいに。


「麗奈」
「な、に?」

「そんな顔しないで?」
「え…」


「目潤ませて見上げられたら、理性飛んじゃう」
「っ、」


私と目線を合わせるためにしゃがみ込んだ林檎は眉を八の字に下げて苦笑した。冗談混じりに言っているように聞こえるけれど、私を見つめる林檎の目は欲に濡れているようにも見えた。

ぞくりと、鳥肌が立つ。
この、この瞬間だ。林檎が林檎じゃなくなる。…いや、林檎だけど、男になる瞬間。この目見ると、声を聞くと、逃げられなくなるような感覚に陥るのだ。


「麗奈」
「、ぁ…」

「怖がらないで、麗奈の嫌なことはしないから」
「林檎…」

「ほら、立って?」


手を差し出してくれて、怖ず怖ずとその手を掴むと林檎はぐいっと引っ張ってくれた。


「ひゃ、わ、わっ」
「っと…」


勢いよく引かれて私は林檎の胸にダイブ。男の人にしては細身だけど、意外とがっちりとしていて。


「麗奈…、」
「…ちょ、りん…っ」


ぎゅう、ときつく抱きしめられて。林檎は私の首元に顔を埋める。林檎の髪が首にあたって擽ったい。


「林檎…ひぁっ、」
「いい声、」


首筋にちゅ、と音を立ててキスをした林檎に思わず変な声が出る。こんな声、はずかしすぎる。



林檎は私の顔見て、くすりと笑い、顔真っ赤だよ?と頬を撫でた、刹那。



「麗奈!さっき麗奈の悲鳴が!

………何、してるの?」


バン、とノックも開いた扉の先には、額に汗を浮かべ戸惑いながらも林檎を見る嶺二と、機嫌悪そうに眉を寄せて林檎を睨みつける蘭丸、無表情ではあるものの少しだけ目を細めて林檎を見る藍、あからさまな殺気を林檎に向けるカミュがいた。



修羅場のよかん



(え、ちょ、みんな…?)



20130425

指が勝手にいいぃぃぃい!!!!

林檎ちゃん贔屓しすぎですごめんなさい。林檎ちゃん好きすぎてごめんなさい。

これR15じゃない…ですよね?…一応指定したほうがいいかな。しておこう。

とりあえずこれめちゃくちゃ長くなっちゃいました。まだアニプリ2話本格的に突入してないのに修羅場展開とかまじ…。