君は、君らしく




「一条さん」
「あ、真斗くん」


トキヤは色々考えたいと言った。そして私に聴いてもらいたいと。断る理由なんてないし、トキヤがあまりにも真剣で、私も応えたいと思ったから二つ返事で頷いた。

そして、私はこれから仕事だからとトキヤと別れ、事務所に向かって歩きだした。すると後ろから声をかけられて、それは真斗くんだった。足を止めてどうしたの?と問えば、彼もこれから事務所に用事があると言う。じゃあ一緒に行こうと提案すると彼は口許を緩めて頷いた。


「そういえば、こうして二人で話すのは初めてだね」
「そうですね。いつもは、黒崎さんや他の方々がいますから」

「…どう、仕事は慣れてきた?」
「まだ、わからないことばかりです」


…堅い。彼はきちんと私の目を見ながら話してくれるが、彼は真面目で言葉一つ一つがしっかりとしている。が、言葉の表現力、バリエーションが豊かではないように感じる。真面目特有の、ちょっとしたお茶目なところがない。(ではないように爆弾投下はあるけどそれは至って真面目にだ)


「………俺と話すのはつまらないでしょう」
「え?」
「よく、堅い・真面目すぎると言われるので。きっと一条さんもそうかと」


苦笑を漏らす真斗くんは、どこか悲しそう、というか切なげに眉を下げた。彼は、そんな自分が嫌なのだろうか。


「けど、それは君の魅力であり個性だよ。例えば君のような話し方を翔くんがしてたら変でしょ?」
「…、確かに」

「君だからいいんだよ。
堅いからなに?いいじゃない、真面目で誠実。女の子はそういう人好きだと思うな」
「……一条さんも、ですか?」


え、と声をあげる。私、私はどうだろう。真面目で誠実な人も、明るくてはちゃめちゃな人も、無口で感情がない人も、その人を知れば好きだと思うし。


「うん、私は君みたいな人も好きよ」
「俺のような人も、か」

「そ、君みたいな人も、レンくんみたいな人もトキヤや翔くん、那月くんに音也くんみたいな人も好き

みんな違う人なんだから、君は君らしくいればいいと思う」


うまく言えないけれど、彼だからこそ魅力があって、慕うファンもいて、仲間として皆が接しているんだと思う。そんな彼が悩む必要なんて、ないのだ。


「春歌でしょ?」
「な、」
「君が…君達が春歌に惹かれてるのは見ていてわかるからね

でも、想いを伝えるのはオススメしない。芸能界で生きていきたいのなら、今はまだダメ。地盤を固めなさい。

…まぁ、早乙女がどれだけ恐ろしい人かわかったら、恋人なんて作れないと思うけど」

「一条さん、好きな人がいるんですか?」
「ふふ、どうだと思う?」

「先輩や、月宮先生と随分親しいようだったので、あの中の誰かを慕っているのでは、と」

「残念、私に恋愛的な意味での好きな人はいないよ」


シャイニーが怖いからね、と笑うと真斗くんは少しだけ、本当に少しだけ楽しそうに笑った。


「いまの、」
「?」
「今の笑顔、すごく素敵だった」
「な、」

「真斗くん、笑った顔は可愛いのね」


男に可愛いと言わないでください、と次は頬赤くしたので、笑ってしまった。今日は、真斗くんのことを少し知れた気がして。仕事頑張ろう、なんて思った。



君は、君らしく



(じゃあね真斗くん)
(はい。…麗奈、さん)
((名前で呼んでくれた!))



20130425

真斗のターン!
ぶっちゃけ空気もいいところだったのでいい加減話さないとと思いまして。
まぁ様は好きだけど口調が掴めません堅すぎて。堅すぎだから名前で呼ぶなんて有り得ないんじゃない?と思ったのですが、真斗もヒロインを知りたいと思っていたし、自分は自分でいいんだと自分を認めてくれたように思えて心が少し軽くなり、尊敬の念を込めて名前で呼ばせることにしました。