幼なじみだから



とりあえずセシルくんに離れてもらって、嶺二に連絡してカミュを連れてきてもらおうと思ったのだけれど、彼が言うには今日じゃなく明日だと言う。

また明日、と頬にキスをされて、その場所を手で押さえるとにっこり笑ったセシル君。そしてざぁあ、と風が吹き思わず目を閉じれば、次に目を開けたときセシルくんはいなかった。


「…いない……夢?」


そんなはずは、ない。確かに抱きしめられて頬に口づけられたのだ。思い出して顔に熱が集まる。駄目だ、最近おかしい。



「あ、麗奈さんおかえりなさい」
「春歌、お疲れさま」
「麗奈さんもお疲れ様です」


いつものように部屋に帰ると春歌がおかえりと声をかけてくれる。先週の温泉旅行からちょっとだけ仲良くなれた気がする、うん。


「なにか、あったんですか?」
「へ?あ、いや、何もないよ」


不思議そうな春歌に笑ってみせると彼女も笑った。春歌といると、癒される不思議。


「そうだ春歌、私今日シャイニーに呼ばれてて帰り遅くなるから、先に寝てていいよ」
「わかりました、頑張ってくださいっ」


ありがと、と頭を撫でると春歌は嬉しそうに頬を赤くした。可愛くて、思わず抱きしめると春歌はあわてふためき私の名前を呼ぶ。…妹にしたい。












「じゃあいってくるね。
あ、あと嶺二達もいないから。春歌、ST☆RISHの誰かが来ても部屋に入れちゃ駄目だよ?」
「大丈夫です。…男の人は皆さん狼、なんですよね」

「そうそう、食べられたら大変だから、扉開けて話すだけよ?」
「はいっ」


ST☆RISHの頑張りは、私もわかっている。個々に実力をつけようともらった仕事を着実にこなしていく彼らを、少しだけ見直した。
彼ら個人個人はすごくいい子達ばかりだけど、集まるとそれぞれ個性が強すぎて、若干頭が痛くなるけど…トキヤや翔くんが頑張って納めてくれていた。(真斗くんもそういう役回りかと思いきや、彼は意外にも天然でたまに爆弾投下してくるから怖い)



廊下を歩いていると、どこからか歌が聞こえた。…トキヤだ。相変わらず素晴らしい歌声で思わず足を止める。ファルセットが、ビブラートが、すごく綺麗だ。また、うまくなってる


「…あ、いた」


窓の外を見れば、トキヤが一人歌っていた。目を閉じて歌うのは彼がHAYATOとして歌っていた曲である。しっとりと、そして昔にはなかった表現力が、鼓膜を揺さぶる。鳥肌がたった。


「トーキヤ」
「、………麗奈」

「また上手くなったね」


そうですか、と目を閉じたトキヤは私の言葉に納得していないようだった。目を開けて私を視界に入れると、トキヤは口を開く。


「まだ、足りないでしょう」
「そうだね、表現力が」
「…どうすればいいのか、まだわからないんです」


貴女には考えられないでしょう、と皮肉めいた言葉に眉を寄せた。この世界が長いトキヤと、彼より数年遅い私。お互い幼い頃を知っているからこそ言える言葉ではあるが、トキヤがこんなふうに弱音を吐くことはそうなかった。


「まだ若いんだから、悩めばいいの。
足りないとは言ったけど、あの頃よりは伝わってきたよ」


自分を偽っていたときに比べたら、トキヤの歌は変わってきている。もちろん、いい方向にだ。
歌が好きだ、もっと上手く歌いたい、伝えたい、届けたい。そんな声が聞こえてくるような。


「私だって、初めから歌えてたわけじゃないんだよ
だって、作曲家コースだったんだもん」


たくさん悩んで、泣いて、歌を、音楽を嫌いになりそうなこともあった。けど、歌うことを決めたから。私は今も歌っているし、歌わせてもらえる場所を与えてもらえる限り、届けたいと思う。


「…ありがとう」
「なんで?私なにもしてないじゃない」

「貴女が傍にいると、不思議と私は歌える気がするんです

今よりも、もっと」


ふわりと、自然に微笑んだトキヤの顔が、声が優しくて、私は釣られて笑った。


幼なじみだから



(そう思って、疑わなかった)



20130424
(公開20130425)

うぁー長くなった…。
トキヤさん勝手に動きすぎですしおすし。

次から2話に…と言ったにも関わらずまた寄り道しちゃう私です。

これアニメ終わる頃には100話いってるんじゃね?とか思った皆さん。もしかしたらそうなるかもしれません(←)

いや、でも各話で特に盛り上げどころがなければさらりと進めるか脱線するもしくはオリジナルでお話書いちゃうので…。