ふわりふわりと飛んでいるみたいな、そんな感覚。
「ん、んぅ…」
目を開けると、蘭丸の顔がドアップで驚いて身体を動かすと、前を向いていた蘭丸は私を見て暴れるなと一言。…どうしてこうなった。
眠くなって瞼が落ちてきて、あぁ多分そのまま寝たんだ。蘭丸は放っておくことはせずに抱えて部屋に連れていってくれようとしたんだ、ありがたい。
「ら、蘭丸私歩けるよ」
「もう着くから大人しくしとけ」
「や、でも」
チッと舌打ちをした蘭丸は私を下ろしてくれて、部屋に向かっていたはずなのに私の手を握って元来た道を歩きだした。
「え、ちょ、蘭丸?」
「起きたんならまだ戻らなくていいだろ。…ちょっと付き合え」
横暴だ。言っても聞いてくれないと判断した私は黙って蘭丸についていく。寮は広い、異常に。なんとなくどこに向かっているかわかるけど、春歌はきっと迷うんだろうなぁなんて。
「、練習したいの?」
「次の曲、できてんだろ」
「うん、とりあえずはね」
やってきたのは練習室で、夜遅いというのに蘭丸は窓を開けだした。風は少し冷たいけれどお酒で火照り気味の身体には涼しくて気持ちいい。
「ほら、」
「ありがと」
ミネラルウォーターを渡されて一口飲むと、口の中のアルコールが少しだけ飛んだ気がした。
練習室にはピアノに始まりギターは勿論ベースもドラムも、楽器は一通り揃っているから、私はピアノの椅子に浅く腰掛けて指を慣らした。
「まだ微妙なとこあるよ?」
無言でいいから早く弾けと言われているように睨まれて、溜息をつく。広い敷地だから近所のことは全く気にしていないけど、確かこの数階上には嶺二達の部屋があったはずだ。眠りの妨げにならなきゃいいけど…。
楽譜はないから、思い出せる限り弾いてやろうと思い、鍵盤に指を走らせる。蘭丸にはロック調の曲が合うのだけれど今回はQUARTETのアルバムに入れる曲だからバラードを一つ。
ラブソングの甘い作詞は蘭丸は書きたくないって言いそうだから、歌詞も全て私が考えたものだ。歌わせるのが楽しみである。
「こんな感じ」
「…バラードかよ」
「いいじゃないたまには。蘭丸のファンが喜ぶよ?」
さっきの作ってあったサビとは少し変えてみたから、たまたまあった五線譜に新しいものを書き出す。すると蘭丸はサビの高音部分を指差して「少しだしにくい」と言った。馬鹿め、出しにくいようにしたのには意図がある。
「掠れた声、いいじゃん?必死な感じが好きなの。愛の歌だし」
なに言ってんだコイツって目をされたけど放置でいこう。
数回同じところを弾きながら手直ししていると、次に弾いたとき蘭丸が一緒になって口ずさんだ。うん、やっぱりいい声である。
「いいね、格好いい」
「、お前」
「ん?」
「…誰にでも言ってんじゃねぇよ」
突然不機嫌になった蘭丸は私の腕を引いた。
「蘭丸…?」
「誰にでも触られてんじゃねぇよ」
「え、と…離して?」
ぐい、と勢いよく引かれた私は蘭丸の胸にダイブしていた。香る香水の匂いが鼻腔を掠めてなんだかくすぐったい。離してくれそうにない蘭丸の服の裾を引っ張っても蘭丸は無反応で。
蘭丸も、林檎や嶺二みたいに、思っているのだろうか。いや、流石に自意識過剰だ。ただ、ここ2日の変わり方に、やっぱり戸惑いを隠せない。どくん、と心臓が五月蝿くなったのに気付かないフリをした。
シトラスの香り
(聞くのが怖い)
(関係を崩すのが嫌だ)
20130423
彼女は恋愛を知らないといいましたが、知らないわけじゃないんです(どっちだ)
自分が恋をしたことがないんです。というかしないようにしているだけというか。
トキメキを感じることはあっても恋しちゃいけないとわかっているからいつも気付かないフリをしちゃいます。
さて今回はランランを動かしたので…次は誰にしようかなぁ。
2話に進んでからにしようか。