不器用な優しさ



タクシーを降りて、まだ少し肌寒い外の空気に少しだけ酔いはおさまってきた。今も、林檎の手は繋がれたままだ。


「ねぇ麗奈」
「ん?」
「私、頑張ることにしたの」

「うん、なにを?」


ぱっと手を離した林檎は薄暗い中でもわかるくらいににっこりと笑った。うわ、かわいい。


「麗奈に、異性として見てもらえるように頑張るから」
「え、」

「だから俺、手加減しないよ」
「りん、」


ちゅ、とリップノイズ。頬にキスされたと気付くまで時間はかからなかった。かぁっと顔に熱が集まって、すっと目が細まる林檎が色っぽくて目が反らせない。


「そんな可愛い顔しないでよ、」



食べちゃうよ?と艶のある声で耳元で囁くように言われては、頭の中がぐちゃぐちゃ、というよりトロリと溶かされてしまいそうな感覚だった。


「ふふふ、でも嫌われたくないから今日は安心して?」


でもまたそんな顔したら、何するかわからないわよ?と悪戯に笑った林檎に、私の心臓はどくどくと早鐘を打つばかり。
この世界にいれば、男性から告白されることも少なくはなかった。そのときは何も思わなかったのに、昨日に引き続いて林檎の言葉に、私は戸惑う。嶺二も林檎も、おかしい。突然すぎる。


「麗奈」

「、蘭丸」


「じゃあ麗奈、私帰るわね」
「う、ん。ありがと、気をつけてね」


またね!と手を振って元来た道を歩いて行った林檎。残った私と蘭丸。今日一日、蘭丸とはほとんど喋っていなかった。


「麗奈」
「ん?」
「…酒くせぇ」
「ひっど、」


鼻で笑った蘭丸を睨みつけると、蘭丸は顔を近付けてきて、私は固まった。え、え、え。


「飲みすぎだ」
「そう?」
「…隙見せすぎだ、誰に対しても」

「気をつけてるもん…っ、痛いいたい痛い!なにするの!」


頬をゴシ、と擦られて熱くなる。痛い、なに突然!眉を寄せた蘭丸は舌打ちしたかと思えば私の頬を先程とは違い優しく撫でた。わ、やだ、なんか、蘭丸がやると恥ずかしくなる。


「キスさせてんじゃねぇよ、バカが」
「、見てたの!?」
「こんなとこでイチャついてるお前らが悪いんだろうが」


イチャついてない!と返すと、蘭丸は私の手首を掴んで寮に向かって歩きだした。な、なんなの。え、蘭丸がよくわからない。


「帰ったらツマミ作れ」
「はい?」
「…アイツらはウゼェしお前が飲みに行ってから嶺二もウゼェし…詫びに作れ」
「意味わかんない…」

「行くぞ」
「…はいはい」


食堂内のキッチンで蘭丸はお酒を飲みだし、食べたいと言い出した物を作っているとコップを渡されて私も飲んだ。これ濃すぎる…!


「はい、どうぞ」
「…あぁ」


箸を渡せば無言で食べだした蘭丸を見ながら、氷とグレープフルーツジュースで割った焼酎を口に含む。あぁまだ濃いや。蘭丸は基本的に、食べているとき喋らない。私がちょっと間違えて濃くなった料理も文句一つ言わずに食べてくれる。…これはすごい嬉しいことだったりする。食べ終わった後に、味濃すぎだバァカって言われるけど。


「レンくんと真斗くん、よろしくね」
「断る」
「って言いながらちゃんと面倒みるって知ってる」


うわ、睨まれた。美形に睨まれると怖い…けど龍也に比べれば怖くはないわけで。


「うあーやばい、ねむ…」
「ここで寝んな、犯すぞ」
「蘭丸はそういうことしないって知ってる…」


ウゼェ、と言う蘭丸の声が聞こえたけど私の意志に反して落ちてくる瞼、眠気には勝てず、私は眠りに落ちたのだった。


不器用な優しさ



(ていうか、)
(食器片付いてたなぁ)



20130422

私も眠気と戦っております\(^O^)/