ストレス発散法



こつ、こつ、と林檎のヒールが響く廊下。龍也はお酒の袋を持ってくれていて、林檎はなんだか気まずそうだ。流石に言い過ぎた気もしたけれど、正直足りないくらいである。


「ねぇ龍也、そんなに酷かったの?」
「…あぁ、もし今卒業試験と同じことをしてもデビューできないだろうな」

「えぇ、そんなに?!」


きっと、浮かれすぎているのだろう。デビューして、モデルの仕事や雑誌の取材が少しずつ増えてきているのだから、デビューできた、アイドルになれたという喜びが全面に出過ぎている。


「あれだけ言えば、明日から少しは心を入れ替えるでしょ。
それに、まだ嶺二達がいるから…蘭丸と藍は期待できないけど、嶺二はあの中で一番大人だからね、フォローに回ってくれるって信じてる」


いや、どうだろう。実際嶺二もあれはないだろって顔していたから、厳しいことを言うかもしれない。言ったとしても、彼はすぐに普段通りに戻る気がする。


「麗奈、明日は休み?」
「うん、休みだからお酒飲んでるよー。ちょっとだけね、」

「龍也も休みだったわよね?」


あぁ、と返した龍也に「実は私も休みなのっ」と笑った林檎は「麗奈着替えてきなさいよ、久しぶりに3人で飲みに行きましょ!」と提案してきた。私たちは断る理由もないから、頷いて一旦別れた。


部屋に戻り服を着替えて少しだけ化粧をし直す。鞄に携帯と財布を入れて、部屋を出ようとしていたとき、扉をノックする音。


「はーい、誰?」


扉を開けると、そこにはST☆RISHと春歌、そして嶺二達がいた。服を着替えていた私にQUARTETの3人は驚いていたが、目の前の音也くん達を見ると、顔が強張っている子が数人。


「…皆揃ってどうしたの?」
「あの、俺たち麗奈さんに認めてもらえるように、頑張ります!だから、」

「あぁ、今はその話聞きたくない
出掛けるから、そこ退けてくれる?」


声のトーンを落として言うと、彼らは私が通れるように退いてくれた。春歌と目が合い、頭を撫でてやる。ほっと息をついた春歌に笑ってみせた。


「春歌、今日は私帰らないからゆっくり寝てね。明日、曲について沢山話そ」
「は、はい」

「嶺二、蘭丸、藍。あとよろしく」


振り返ることなく歩いていくと嶺二の声が聞こえた。トキヤと音也くんを呼んで部屋に帰るよと言っているようだった。



「ごめん、お待たせ」
「ハルちゃん達、行ったでしょ」
「来たよ。話は全く聞いてない」

「少しは優しくしてあげてね」
「今は無理。っていうか、林檎もあれ生で見てたら龍也みたいになるって」


言うと、林檎は苦笑し「行きましょ」と歩き出した。龍也が持っていたお酒の袋は、私を待っている間に食堂の冷蔵庫に入れたそうな。




よく(といっても3人揃って次の日にオフなんてことは早々ないけど)訪れる隠れ家のような飲み屋に来た私たちは、店長に個室へと通される。とりあえずビールで乾杯をして、日頃の愚痴を延々と話していた。


「龍也も大変だね、シャイニーが壊して回るから経費関係に目回ってるんじゃない?」
「もう慣れたでしょ、流石に」
「あ、そっか」


林檎と笑い合うと龍也は「他人事だなお前らは」と溜息をついた。彼ら年上2人の中に私がいること、たまに夢なんじゃないかと思うけど同期として、仲間として、友達として接してくれる二人が私は大好きだ。

かなりの量を飲み3人揃ってほろ酔いになって、次の店に向かおうかとなったが林檎は美容のため、龍也はとにかく眠りたいと言ったので解散になった。が、時間も時間なので誰かに迎えに来てもらえと龍也に言われた。


「私送ってくわよー?」
「いいよ、林檎のマンション寮と真逆じゃない、早く化粧落とさないと肌荒れるよ?」
「気をつけてるから大丈夫っ。ほーら、行くわよ麗奈!」


じゃあねん!と龍也に手を振った林檎は私の手を握ってタクシーに乗り込んだ。


ストレス発散法



(おっきい手)
(やっぱり可愛くても男なんだなぁ)
(なんて、ぼうっとする中思った)



20130422