アイドルの自覚





「じゃ、準備はいい?」


ディスクを入れた林檎は笑顔で問う。この場の雰囲気はめちゃくちゃ悪いのに、彼がいるだけで幾分か和らいでいるのは気のせいじゃないはずだ。


「嶺二、蘭丸、藍
言わなくてもわかるよね」


無言で頷いた3人の顔は笑っていたり無表情だったり機嫌が悪そうだったりと三者三様だったが、大丈夫だろう。彼らはプロだ。


イントロが流れ出して、私は本来伯爵様、カミュのパート。彼は声が低めだからと歌う箇所もきちんと合うように決めた。ダンスもちゃんと見て、5人で完成させたようなものである。そして私は、彼らより先輩。


見せてあげよう。これがプロであり、魅せるということだ。君たちとは違う、もっと敬うべき、尊敬すべき人達なんだとわからせてあげよう。


「昼間聴いたのと、全然違う…」


ただ魅せられて。目が離せない。自分達とは全然違う。先ほどとは違う麗奈が入ったことによる違和感は初めこそあれど、そんなものすぐに消え失せた。すごい、すごい、すごい。頭に巡るのはそんな幼稚な言葉ばかりで。
足りないものを補い合って、綺麗にハモって、ダンスも、息がピッタリで。即興で歌って踊っているのが嘘なんじゃないかと、彼女と彼ら4人の曲なんじゃないかと思うほど、引き込まれた。



「ねぇ、音也くん達はさっきどういうつもりで歌ったの?」
「え?」


曲が終わって、だらし無く口を開けたままの彼らに問う。


「君達は、誰に聴かせていたの?」
「あ、の…」

「聞いていたのは誰?」
「日向先生と、先輩達と、七海達、」

「そう、龍也と嶺二達と春歌達

ねぇ、マスターコースに時間外なんてないよ。

私たちは常に君達を見てる。さっきのも、ある種のテストみたいなものかな」

「麗奈、結果は?」
「不合格に決まってるでしょ」


さっきので合格できるほど甘くないわ。と言うと龍也は頷いた。林檎は苦笑して音也くん達に元気出してねと励ました。


「嶺二、見ている人が一人でもいたら?」
「…ん?」
「あれ、教えられてないの?」


なんだ駄目じゃん。と声を漏らすと嶺二はあぁ、と思い出したように口を開いた。


「見ている人間が一人でもいれば僕はアイドル。見ている人間が誰であろうとその人は客でありファン、だったよね」
「そうそう。
音也くん達はそれをわかってないみたいだから。出直しといで」


あと、と声を上げると、6人はびくりと肩を揺らした。


「自分達でなんとかするって大口叩くなら、もっとマシなパフォーマンスしなさいよ

林檎、龍也、せっかく来てもらって悪いけどこれでお開きね。林檎の分はちゃんとあるから、私の部屋行こ」
「…わかったわ、じゃあね皆」

「嶺二、悪いんだけど食器は全部水に浸しておいて。明日洗うから」
「ん、りょーかい」


龍也が持ってきてくれたお酒を袋に入れ直して、林檎の分の料理を持ち食堂を出た。さて、あとは彼らがどうするか。先輩である3人がどう対処するかにかかってるかなぁ。


アイドルの自覚



(麗奈、ちょっとは落ち着いた?)
(ずっと落ち着いてるわよ…)



20130421

指が勝手に動く…!
ヒロインさんが悪者になっていく。そしてめちゃくちゃである。

嶺二に言わせた言葉は、何かで見た、聞いたことのある言葉。

これ恋愛系の連載なんだけどな…あれ?