最低最悪としか


正直言って、まだまだだった。
個々の魅力を引き出す素晴らしい曲に、ライバル同士だった彼らが紡ぐ歌。素晴らしい、何度も聞きたい。ファンがそう思える曲だと思う。けれど、まだまだ足りないものがある。それに、今のは、最悪である。


「ねぇ、」
「麗奈、今はやめとけ」
「や、無理

あのさ、君たちこの世界舐めてるの?今はオフだからただ歌ってるだけ?

なんなの今の歌。、最悪以外の言葉が出てこないよ」


嶺二が慌てて音を止める。ST☆RISHの6人は固まって私を見ている。後ろにいる春歌は慌てふためいて、嶺二達は溜息をついた。龍也も、言いたいことはわかってるんだと思う。


「お、俺達は…!」
「ねぇ、レン。
さっき言ってたよね。先輩達に負けてると思ってないって。

…調子に乗りすぎたね。こんなの嶺二達の足元にも及ばない」


今のはカラオケかなにか?素人がアイドルの曲を歌っちゃいましたてへぺろって感じなの?自分達がデビューしたという自覚が足りない。
自分達の歌を、先輩や教師だった龍也が見ているのだ。オフだろうと本気を出すのが当然だろう。そして、人が見ている場で歌うのだ。いつも全力、全てを見せ付けるくらいの勢いでやらなきゃ意味がない。見ている人が一人でもいたら、アイドルであろうとしなきゃならないのだ。彼らは、それをわかっていない。お遊びで歌わせたとしても、ここはマスターコースなのだ。


「全然駄目、やる気なくした」
「麗奈ちゃん落ち着いて、ね?」

「ボクは麗奈が言うのも無理ないと思うけど」
「だから言ったんだよ、無駄だって」

「ランランにアイアイまで…もう、あまりハッキリ言っちゃ駄目だって、まだ初日なんだから…」


そういう嶺二がさらに彼らの傷をえぐっているとは気付いていないらしい。はぁ、と溜息をついて私は食堂から出ようと彼らに背を向けた。


「ま、待ってください!もう一度、もう一度歌わせてください!」

「はぁ…」


音也くんの言葉に溜息をついて彼らを見る。ホッと息をついてチャンスをもらえると思ったらしい彼ら。だから、そんなに甘い世界じゃないんだよ。


「ステージを下りて。
君達はまだ、そこに立つ資格はなかったみたいだから」
「な…っ」


翔くんがいらついた様子で私を睨みつけた。


「おはやっぷー!って時間じゃないけど…って、あら?え、なぁにこのイヤーな雰囲気」
「林檎、ごめんね」
「やだ、なにどうしたの?」


春歌が林檎に事情を説明すると、なるほどねぇ…と林檎は苦笑した。


「私は見てないからわからないけど、麗奈が怒るってことは皆相当酷かったのね」
「酷いなんてもんじゃないわ」
「ふふ、教えてあげて、センパイ?」


鞄から何かを取り出した林檎はにっこりと笑い、そのディスクに書かれている文字に溜息をついた。


「ポワゾンKISSって…それ」
「くる途中でシャイニーに会ってね、持ってけって言うから」


役に立ったみたいね?とまた笑った林檎に嶺二は苦笑、蘭丸は溜息、藍は無表情のままステージに向かって歩きだした。


「麗奈、行こっか」
「…ん、了解」

「オラどけテメェら」


蘭丸がドスの効いた声で言うと、彼らはまだ眉を寄せて戸惑いの表情を浮かべたままステージを下りた。


最低最悪としか



(あぁもう、イライラする)



20130421

はい、なんかめちゃくちゃなことになってます。
ヒロインさんがめちゃくちゃ酷い人になってます。それにはちゃんと理由があるんですけどね。