こんこん、とノックすると中から龍也の声が聞こえて扉を開けた。
「来たか」
「急にどうしたの?話しがあったんならさっき…」
「アイツらの前では言えないことなんだよ」
龍也の言葉にきょとんとして、座れと言われたので空いている椅子に腰掛けた。みんなの前では言えないことって、一体?
「お前、寮で絶対に普段通り過ごすな」
「……へ、なんで?」
「寝るときは必ずパジャマを着ろ。部屋を出るときは上着を羽織れ」
「え、え、え」
龍也は次々と私に指定してくるので頭の中がぐちゃぐちゃ、そしてなんでそんなことを言われているのかわからない。
「これは最重要事項だが…アイツらの前で隙を見せるな、無防備になるな」
「え、待ってどういうこと?」
「お前は隙が多いんだよ。男に警戒心を持て」
はぁ、と溜息をついた龍也は数枚の紙を私に手渡すと近くの椅子に座った。紙には先程龍也が言ったことがつらつらと書かれていて、項目が多過ぎて目が痛い…。
「マスターコース担当の3人、それと神宮寺には特に警戒しろ」
「嶺二達?」
確かにレンくんは女の子慣れしてそうだけど、彼は多分春歌にお熱だと思うから心配することはないと思う。あと藍も蘭丸も、私なんぞに興味なさそうだし…。
「何かされそうになったら直ぐに逃げろ。それか俺に電話しろ、いいな」
「…一応、わかった、うん
あ、ていうか」
「…なんだ?」
「上着羽織るって、どういうこと?」
最近は暖かくなってきたとはいえまだ夜は冷える。だからか長袖を着ているし、さらに上着を羽織るほど寒いわけじゃないと思うんだけど。
「今朝林檎から聞いたが、お前は寝るとき薄着すぎるんだよ」
「え、いやそれはさ」
「言い訳はいい、わかったな?」
う、と言葉に詰まって渋々頷くと、龍也はまだくどくど言っていた。龍也はお母さん気質だと思う、うん。
「話はそれだけなら帰るよ?荷物まだ解いてないのあるし」
「…いや、」
椅子から立ち上がって扉に向かった。
「えー?…って、ちょ」
いつの間にか龍也は私の後ろにいて抱きしめられた。背の高さが全然違うからすっぽりとおさまる。身動きがとれなくて、さらにこういったことが続いて頭がおかしくなりそうだった。
「龍、也…?」
「………」
何も言わない龍也に身じろぎして離れようとしてもびくともしない。なんで、やだ、もう今日やだ。
「震えてんぞ」
「や、ちが…」
「馬鹿かお前は」
低い声が鼓膜を揺らす。見上げると龍也が私を睨みつけていて。え、え、と口を開閉させていると、龍也は私を離し、声大きく怒鳴りつけられた。
「隙を見せるからこうなるんだ、だからお前には隙見せるなって言ったんだよ」
「…うん、」
「あそこにはお前と、七海と男しかいない。…理由、わかったか」
「わか、た」
ならいい、と頭を一撫でした龍也は、ふっと笑って「気をつけて帰れよ」と扉を開けてくれた。
マスターコースが決まってから、色々とありすぎている。ついていけない。でも、
「頑張らなきゃ」
最重要事項です
(隙を見せなきゃいいんでしょ?)
(大丈夫だいじょうぶ)
20130419
うーむ…なんだかよくわからぬ展開です。