私の過去話はこれくらいにして、そろそろ彼らを部屋に向かわせようか。七海さんも待っているだろうし、私も部屋に向かわなきゃならない。
「さ、皆そろそろ部屋に向かって。蘭丸は気が短いからイライラしてると思うしね
何か困ったことがあったらすぐ言って、対処するから」
私の部屋は七海さんと一緒だからわかるよね?と問えば、彼らは頷き一十木くんが「ありがとうございました」と頭を下げた。
「じゃあ、またね」
七海さんの待つ自室に戻ると、ベッドに座って慌てだした七海さんに笑った。あぁ、この子可愛い。
「春歌」
「ひゃ、はいっ」
「貴女の担当になった一条麗奈です。私のことは名前で呼んでね」
「はい、麗奈さん」
きらきら、目を輝かせて春歌は頷いた。互いにまだ荷物を片付けていないから黙々と片付けていると、不意に鳴った携帯。
画面を見ると、そこには嶺二の名前。着信だったから、通話ボタンを押すと、明るい声が響く。
「麗奈ちゃーん」
「はーい、どうしたの?嶺二」
「いやぁ、麗奈ちゃんが後輩ちゃんの担当って知らなかったからさ
これからよろしくねって電話してみたんだよっ」
「昨日決まったからねー…林檎が当日ビックリさせようって」
「僕ちん本当ビックリしたよ!ランランもアイアイも驚いてたし」
「なら、作戦成功ね」
笑うと、嶺二も嬉しそうに笑っていて。
「ねぇ麗奈、後で会いに行っていい、かな?」
「…マスターコースの相談?」
「え、あ、そう!そうそう、ちょっと相談があるんだ」
「わかった、今まだ片付け終わってなくて、少ししたら事務所行くから…その後でいい?」
問えば、嶺二も事務所に用事があるらしく一緒に行こうと言われて、了承した。30分後に部屋まで来てくれるらしいから、それまで片付けをしていよう。
「あの、」
「ん?」
「麗奈さんは作曲家コースだったんですよね」
「そうだよ」
「あの…麗奈さんはどういうときに曲を作りますか?」
真剣な瞳。
私が作曲するとき、かぁ。そうだな。例えば
「悲しいことがあったとき、嬉しいことがあったとき
あとは、曲を提供する相手のことを考えたときかなぁ」
「曲が作れないとき、ありますか…?」
「あるよ、だって私も人間だし。気分が乗らないといい曲はできない」
片付けていた手を止めて、部屋に置かれているピアノまで歩く。かたん、と椅子に座って鍵を撫でる。ぽーん、と一つ音を鳴らして、まるで何かが乗り移ったかのように音を奏でる。この曲は、そうだな、これから迎えにきてくれる嶺二みたいな、楽しくて、でも優しくて。そんな曲にしようか。
「この曲、」
「いま即興で弾いた曲だから楽譜はないんだけどね、あとで書き起こしてちょっと手直しするくらい」
すごいですっ、と春歌は手を叩いて喜んだ。これから同室なのだ、私がわかることはなんでも教えてあげたい。見守るときは見守って、メリハリつけて。
コンコン、
ノック音が聞こえて扉に向かおうとする春歌を止めて、私は事務所に持っていく書類と携帯、財布の入った鞄を持って春歌に事務所に行くから好きにしててね、と声をかける。「いってらっしゃい」と笑顔で言われて、私も笑顔になった。
いってきます。
(どんな顔してるかな)
20130418
作曲とかピアノとか、私はわからないので詳しいことはわかりません(;ω;)