独り占めしたい



砂月は、セシルがかけていたサングラスをかけて那月に戻った。
その後の撮影は、なにが起きたのかわからない、というほど撮影はさくさく進んだ。カメラマンの熱が上がる、那月もそれにこたえる。楽しそうに、それはもう楽しそうで。見ているこちらも、那月の表情に魅せられる。

「うん、もう大丈夫ね」
「麗奈さん?」
「ごめん皆。私ちょっと事務所に呼び出しくらってるからそろそろ行くね」

床に置いておいた荷物を肩にかけて一人一人の顔を見る。いってらっしゃい頑張ってという嬉しい言葉を背に、私はスタジオを出た。さてシャイニーにメールをしたのはいいけど、それから2時間は経っている。怒ってるかなぁ。いや、多分シャイニーはわかってると思うんだ。私が最後までいるんだろうって。だから、うん、電話して、謝ろう。

「麗奈ちゃん!」

後ろから声をかけれられて振り向く。そこには、サングラスをかけてこちらにかけてくる那月がいた。足を止めて彼に向き直ると彼はありがとうございました、と頭をさげた。疑問符を浮かべると、撮影に付き合ってくれたこと、そして自分の記憶がないときのこと。ありがとう、とにっこり笑う那月に癒された。気にしなくていいのに。だって、頼まれたからとはいえ、那月の新たな一面を見ることができたのだ。これは嬉しい収穫である。そして今回の仕事が成功したようなものである。また一歩、受賞に近付いたのだから。

「無事撮影も終わったし、那月はまた成長したね、すごく素敵だったよ」
「ありがとうございます。でもきっと、ボクだけじゃ絶対に撮影もうまくできませんでした」
「そんなことない、那月はかわったよ。強くなった」

だから、自分に自信を持って。笑って言うと、那月も笑ってはい!と良い返事をくれて。

「麗奈ちゃん、」
「わっ、那月…?」
「だぁいすきです!」

ぎゅう、ときつくきつく抱きしめられた。少し、いやかなり苦しいけれど彼が嬉しそうに、楽しそうに笑ってるから良しとしようか。

「麗奈ちゃん、ボク。皆さんには負けませんから。だから、覚悟しててくださいね」
「え、」
「ボクだって麗奈ちゃんを独り占めしたいですから」

ほんわりふんわり、力を緩めて私を離した那月の笑顔に、思わず笑った。あぁこの子もこんなに、私を想ってくれるんだ。大丈夫、ちゃんと、私は向き合うよ。今度は、ちゃんとね。

「私を惚れさせてみなさい!」

お互いに笑いあってあぁなんか青春してるかも、なんて。

独り占めしたい


(君の気持ちも、嬉しいよ)
(私は、恵まれている)


20140329