ひとりじゃない



「あれ、麗奈!」
「今来たんだね、お疲れ様」
「えぇ。…麗奈、四ノ宮さんの撮影は?」

「シャイニーから電話きて休憩中に出てきたの。今どうなってるのかは…」

聞けば、いま那月は砂月になってしまっているらしい。急いで屋上に向かうとのこと。シャイニーに呼び出されたけれど、私は今日那月の撮影に付き合うと約束した。駄目だ、今はまだ帰れない。シャイニーに「緊急事態発生、まだ帰れません」とメールを打ち、2人と屋上へ急いだ。

「春歌!」
「麗奈さん!」
「ごめんね、遅くなって」

大丈夫です、といった春歌だけど、視線をそらした先には那月(砂月)がいた。かなり狂暴な性格だと言っていたが、あれは。
多分、自己防衛だ。那月の中にいる砂月は、きっと那月を守ろうとしているんだろう。なんとなく、そう感じた。だって、撮影のときに那月は、うまくいかないことに不安を感じたはずだ。何故だろう、どうしてできないのだろう。ボクじゃダメなんじゃないか。そんな風に、マイナスのことを考えたに違いない。そんな那月の心を、彼は察したんじゃないだろうか。

「麗奈!危ないよ!」
「なんで?だって彼は那月の中にいる子でしょ?大丈夫だよ」

一歩、一歩と近付くと、砂月は私に気づいたようで、鋭い目つきで睨んできた。あぁ、この子は弱い。ただ強がっているんだ。暴力で解決しようとしているんだ。それは、きっと怖いから。
後ろでトキヤが電話をかけている。真斗とレンにだろう。大丈夫なのに、そうやって追いつめると、彼が傷ついてしまうのに。

「なんだ…那月が最近気に入ってる女か」
「はじめまして、砂月くん…だよね」
「オレに近付くな、」

「なんで?大丈夫、君に危害は加えないよ。ごめんね、撮影がうまくいってなくて、那月が不安に思ったの感じたんでしょ。私は何も言ってあげられなかった、ごめんなさい」

偽善はやめろ。砂月の言葉は正論だ。これは偽善なのかもしれない。私は違うと思っても、人それぞれ感じ方は違うのだから、彼が偽善だと思ったらそれは偽善なんだと思う。でもね、わかってほしいんだ。那月は一人じゃないし、砂月も、一人じゃない。

「はっ、何を言い出すのかと思えば…一人じゃない?別にひとりでも構わねぇ」
「…何を怖がってるの。那月が傷つくことが嫌なのはわかるよ。私だって嫌、誰かが傷つくのはね。だから私は気持ちを隠して逃げてた。けど、それじゃダメなんだよ。傷つくことは辛いけど、そうやって人は成長してくの」

でもね、そう言いながら近付くと、砂月は拳を私の目の前に突き出した。後ろで、翔が叫んだのが聞こえた。

「当てないの?」
「ちっ…」
「怖がらないで、貴方たちは一人じゃない。那月は君とかわっているとき覚えていないと聞いたけど、心のどこかで君に守られていることわかってるよ」

怖がっていない、彼は目を伏せて言った。つらいんだ。苦しいね。一人で那月を守ってきたんだね。誰も、君に歩み寄ろうとしなかったの?答えは否、のはずだ。だって春歌は、いまも砂月から目を離さずにいる。彼女は本当に、心優しい子。

「ねえ砂月、話をしよう」
「話?…話すことなんて」
「那月のこと、教えてよ。君が誰よりも那月を知ってるでしょう?」

にこり、笑ってみせる。彼にこの笑顔がどう映るかはわからない。けれど、歩み寄る努力をしないと、心を開いてもらうなんて無理な話だ。

「…今度、気が向いたら話してやる」
「うん、ありがとう」

私の目の前にあった拳を下した砂月は、私の手首を掴んで歩き出した。砂月さん!と春歌はこちらに駆け出して、私は春歌の手をつかみ、一緒に歩く。扉の前、がちゃりと空いたその先に真斗とレンがいて、眼鏡をしていない彼を見て驚いていた。

「一ノ瀬、あれは」
「砂月さんです、」
「大丈夫なのかい?麗奈と子羊ちゃんが行っちゃうけど」

「…いい、行かせてくれ」

声のトーンが落ちている翔の声が聞こえた。翔も、歩み寄ろうとしたのだろう。けれど頑なに拒む砂月に、悔しい思いをしたのだろう。頑張っても頑張っても、彼は心を開いてはくれなかったようだ。那月との付き合いが長いからこそ、悔しいのだろう。

がちゃり、重い屋上の扉が閉まる。私と春歌そして砂月はロビーに戻った。彼は、どうするつもりなのだろう。

「砂月さん、なにを」
「オレがかわりに撮影する。そしたら、那月は傷つかないですむからな」
「そんな、」

「駄目だよ」

思わずでた言葉に、春歌と砂月が私を見る。なぜだ、なぜだ。砂月の目は私にそう訴えているみたいだ。君が撮影にのぞんだら、すぐに終わるかもしれない。でもね、それじゃ那月は傷つくよ。やった覚えのない撮影で、自分で頑張ろうとしている那月の想いを、踏みにじることになるんだよ。そんなの、那月は嬉しくないんだ。砂月だって、嬉しくないだろう。

「那月が頑張ろうとしてる。君が撮影したら、那月は傷つくんだよ。那月の頑張ろうって思いを、踏みにじるのは許さない」
「お前、」

「…砂月さん、四ノ宮さん言ってました。いつも誰かに守られてる気がするって。だからもっと強くなろうって、四ノ宮さんは頑張っているんです」

春歌は先ほど那月は春歌に渡した紙を砂月に渡す。そこには、春歌の作った曲が。そして、那月の想いが書き込まれていた。

「砂月、那月は大丈夫、君が思ってるほど、彼は弱くなんてないよ」

だから、ね?

ひとりじゃない


(え、眼鏡壊れたの?)


20140327
アニメの内容をちょいちょいと忘れてしまっていて、このお話はかなりオリジナル色の濃いものになってしまいました。
原作沿いといいながら、本当に申し訳ありません。