撮影開始そして



「春歌!」
「、麗奈さん!」

お待たせ、と待ち合わせ場所に行くと、春歌の後ろから走ってくる人影。あ、那月だ。

「お待たせしました!」
「四ノ宮さん!」
「お疲れ様、那月」

はいっ!とにっこり笑う那月。可愛いなぁ。那月は背が高いし、男の子に可愛いなんて言うのは失礼なのだろうけれど、雰囲気がふんわりとしていて癒される。
見てください、と春歌に渡された紙。春歌は少し驚いてその紙を見つめる。二人が会話をしているとき、私の仕事用携帯が鳴り、通話ボタンを押した。

「もしもし?」

麗奈、今大丈夫ですか?聞こえてきたのはトキヤの声。大丈夫だよ、と伝えるとトキヤは今夜時間があるか、と聞いてきた。生憎今晩は林檎と龍也と晩ご飯を食べに行くので、きっと帰るのは0時をすぎてしまうだろう。そのことを伝えると、トキヤはそれでも構わないと言った。

「…わかった、なるべく早く帰るようにするね」

そういって通話を切る。二人は私をじっと見ていて、なに?と問えば

「麗奈ちゃん、なんだかスッキリした顔してますね」
「私も思いました、笑顔が、前のようで」

「…心配かけてごめんね、でももう大丈夫だから」

いつもの麗奈さんだよ!というと、二人は素敵な笑顔をくれた。あぁ、可愛い後輩だ。行こうか!と笑ってみせると、二人は「はいっ」と声を揃えて、春歌は私の腕に抱き付いてきた。

「麗奈さん、昨日は、本当にごめんなさい、わたし…っ」
「いいのいいの!春歌の言う通りだったんだから。気にしないでいいんだよ。ほら、笑って?」

泣きそうになる春歌の頭を撫でると、春歌は目に涙を浮かべながら笑った。そして後ろからドン、と抱き付いてきた一名。

「ボクも二人をぎゅーっ!です!」
「ふふ、いい後輩を持てて私は幸せものだー!」

三人並んで撮影場所へ向かう。とても素敵な午後になりそうだと、空を見上げた。



撮影が始まったけれど、監督が思う表情、雰囲気を作り出すことができない那月は、溜息をついた。監督が望んでいるのは、那月の中のいる砂月だそうだ。彼は、彼であるというのに。春歌もはらはらしながら見守っていた。

「ん?」
「麗奈さん?」
「ごめん、ちょっと仕事の電話入ったから行ってくるね」

はい、と春歌は不安そうにしていたが、申し訳ない。すぐに帰ってくるからと頭を撫でればいってらっしゃいと笑みを見せた。正直、ここを離れたくない。だからといって、シャイニーの電話を無視はできないし。スタジオを出て通話を押せば、聞こえてきたのはテンションの高いシャイニーの声。

「ミス一条ー!撮影は順調デスカー?」
「ううん、ちょっと難航。かなり時間かかりそう。なにかあった?」
「…そうか、」

ぐっと低くなったシャイニーの声に肩が震えた。あぁ、やはり慣れない。シャイニーから、早乙女さんにかわる瞬間は、きっといつまでも慣れないのだろう。

「お前はもうスタジオから出て事務所に来い」
「え、でもシャイニーが」
「…お前は、寿嶺二を選んだのか?」

は?と思わず声をあげた。聞けば、昨日の夜の写真を撮られていたらしい。私はまだ誰も選んでいない。それは誤解だと告げると、シャイニーは笑った。そうだろうとは思っていた、そう言ったシャイニーは私と嶺二にカップル役でデートをする企画に出演してもらう、と言い出した。嶺二だけじゃない、林檎、龍也、そして蘭丸に藍、カミュとだ。聞けば「シャイニング☆デート」とかいうシャイニング事務所の人気アイドルと、同じ事務所に所属の私がデートする企画だそうだ。
彼らの恋愛観、デート場所、コース等、ファンの子たちに新たな一面を知ってもらうための企画なのだという。好評であればST☆RISHのメンバーともデートすることになりそうだ。うん、ファンの反応をみるまでもないだろう。絶対に好評に決まってる。後日撮影する日程、順番等を書類にて教えてくれるらしい。

「社長、嶺二との写真は…」
「あぁ。それに関しては『一条麗奈の体調がまだ戻っていないから、事務所メンバーに迎えにいかせた』と伝えた」
「そっか…ごめんなさい、油断してた」

「麗奈」
「な、なに?」

シャイニーの声はまだ早乙女さんのまま。いや、シャイニング早乙女だから早乙女さんにはかわりないのだけど、早乙女光男さんなのだ、今は。次に何を言われるのだろうとドキドキしながら待っていた。

「あまり、隙を見せるな」
「…はい、社長」

「では、社長室で待ってマース!!」
「え、本当に帰らないとダメなの!?」

言い切る前に通話を切られ、あぁこれは帰らなきゃダメじゃん…と肩を落とした。

撮影開始そして


(あれ、トキヤと音也だ)


20140327