二重人格保持者




「…砂月?誰それ」
「那月のもう一つの人格っつーか…実際見たほうが早ぇけど危ないからな…」

「那月の中にもう一人?…なんだか夢みたいな話だねぇ」


先日のファッションショーは、突然の停電に会場が不安に揺れた。けれどレンくんが歌い、その曲のインストを春歌が持っていたことからレンはフルで歌いきった。
確執あったお兄さんとも和解したらしい。随分とすっきりした顔で笑っていたし、俺も諦めないことにしたと頬にキスされてやられた、と泣きたくなった。


そして今は、那月くんに、と依頼された仕事について翔と話していたところである。眼鏡を取ったら性格が変わりもう一つの人格「砂月」が現れるらしい。翔が嘘をつくとは思えないし、春歌も頷いていることから、信じることにした。
けれど、実際に遭遇しないとわからないけど…聞く限りだとかなり狂暴な性格のようで。うん、会いたくはないけど、那月くんを大事に思っているらしいから、いい人なんじゃないかなと思う。


「んで、その撮影は明日だっけ?」
「そうなんだよ…けど俺は仕事だし七海一人に押さえるの頼むわけにもいかねーし…」

「うん、で…私に言ってみたと」
「すまねぇ…けど他の奴らは知らねぇし、砂月になってる間の記憶は那月にないんだ…仕事に影響出て、変な噂立っても困るしさ…」


本当に困ってるんだなぁ、そして、本当に那月を大事に思ってるんだなってわかるから…笑って頷いた。


「いいよ、明日はオフだし撮影ついてってあげる」
「ホントか!?」
「うん、ホント。って言って役に立てるかわかんないけど」


来てくれるだけで有り難い!と話していたら、翔と那月以外のメンバー眉を寄せていた。黙っているなんて水臭い、と。翔は、申し訳なさそうに、けれど嬉しそうに話していた。明日は、ST☆RISHが勢揃いするらしい。皆仕事が終わってからくるみたいだけど…多分、大丈夫だよね、うん。


「麗奈」
「ん?」
「17時から仕事では?」

「うぁ、そうだった!
ごめん皆、私行くね!帰ってくるの遅くなりそうだったらアレだから…トキヤ、何時からか後でメールしてくれる?」

「えぇ、わかりました。
お気を付けて」


ありがと、と笑って談話室をあとにする。今日は蘭丸と仕事だ。とあるブランドのイメージモデルに選ばれて、撮影についての打ち合わせがある。
本来なら午前、若しくは午後一にやるはずだったのだが、蘭丸が雑誌の取材で出れないとのことなので、取材が終わってから17時に打ち合わせとなったのだ。
テレビの仕事は、この間レギュラーに復帰したけれどゲストとしてはまだセーブしている状態。早乙女さんがまだ許可をくれないのだ。(あんなに仕事仕事って言っていたのに不思議だ)


「あ、麗奈っ」
「やっほー林檎」


事務所に着くと林檎が駆け寄ってくる。退院してからというもの、林檎と龍也は私のことを心配してくれて仕事、食事、その他諸々に関して五月蝿い。母親か、とツッコミたくなるほどである。


「蘭丸、きた?」
「えぇ、いま龍也と話してるからコーヒーでも飲んで待ってたら?」
「そうするー」


二人は、早乙女さんから直々に警告されたらしい。ごめんと謝られて、私は曖昧に笑うしかできなかった。二人と話せなくなるのは辛くて。だから、


「林檎、今度飲みに行こうよ」
「いいわね、いつ行く?」
「うーん…龍也にも聞いてみよ」

「久々に三人で飲みにいけるの楽しみねっ」


林檎の笑顔に、救われた。


二重人格保持者


(あ、蘭丸きたきた)
(車乗っけてあげるから行こ)


20130927