最後の人も。



「お兄ちゃん、来たよ。
あ、レン君ここにいたんだ?」

「おー、来たか」
「レディ、来てくれたんだね」


兄から電話で控室に来いと半ば強制されて訪れた控室にレン君もいた。彼はメインのはずだがこんなところにいていいのか、と思ったけれどレン君ならきっと大丈夫だろう、なんて思って突っ込まないでおいた。


「レン君、レディはやめてって前言ったんだけど?」
「ごめんごめん、つい癖でね」
「…もう、」


トキヤに話したあの日、夜にずっと考えていた。守ると決意したけれど私にそれができるのか、と。やらなきゃいけないと思うけれど、私は、弱いから。


「麗奈」
「え、あ、なにお兄ちゃん」
「終わったら、林檎と龍也と飲みにいこうぜ」

「えー…病み上がりにお酒誘う?」
「いいだろ、最近飲んでなかったし」


言い出した兄は聞かないだろうから仕方なしに頷くとレン君は「体調はもう平気?」と私の髪を弄びながら聞いてきた。兄の「麗奈に触るな」はスルーだ。


「うん、もうすっかり。仕事してなさすぎてオカシクなりそうだよ」
「麗奈も、仕事人間だね」


私の髪に触れていた手で私の頭を撫でると、レン君は優しい笑みを浮かべた。も、ということはきっとお兄ちゃんと同じだと思ったんだろう。お兄ちゃんも、生粋の仕事馬鹿だからなぁ、なんて。


「レン、そろそろ時間だぞ」
「はいはい。スバルさん出番先だろ?麗奈はちゃんと見送るから、行っておいでよ」
「…手出すなよ」


出さないよ、と笑うレン君を睨みつけながら兄は控室を出ていった。残った私もそろそろ席につこうかと思い、行くねと控室の扉に手をかけたがレン君の手が重なり、それは叶わなくなった。


「なに?」
「好きだよ、麗奈」
「ありがとう」

「ライクじゃない、ラブのほうだ」
「…あまり関わりのない人間のどこに惚れたの?」


どの道断るのだ、と自嘲混じりに問うと、レン君は今まで見たことがないくらい真剣な目をしていた。そうだな、と低くなる声に、ぞくりと背が粟立つ。


「その目、かな」
「…目?」

「どんなに辛いことも一人で抱え込む、けれど陰りを見せないその目。
オレの、欲しい言葉をくれるその口。
誰にでも惜しみなく向ける笑顔。
苦手なはずのオレにも、変わらずの態度で接してくれる。

…全部が、愛おしいよ」


紡がれる言葉は嘘みたいに軽いのに、彼が本気なのだと悟る。
彼を見てあげることはほとんどなくて、関わりも少なくて、なのにそんなふうに思っていたなんて。彼は、よく人を見てるんだな。


「…ありがとう」
「レディのお気に召す言葉かは、わからないけどね」
「ふふ、嬉しいよ。
でもごめんね、付き合うことはできないし、君を恋愛対象として見ることはないよ」


わかってるよ、と苦笑したレン君は私の手を離して、客席に行くように促した。


「ありがとう、レン」
「いや…こちらこそありがとう」


レンへの苦手意識が少し薄れたのは、彼の目が嘘をついていなかったから。

最後の一人も。


(コンプリートしちゃったよ…)
(もうこれ開き直っていいかな)


20130927
ミッションコンプリート!(←)
…違いますね。
レン様と関わりがなさすぎたので、レン様がどうしてヒロインに惚れたのか考えるとこうなりました。人をよく見ているだろうからなぁ、と考えて、です。
クサい台詞を吐かせたかったけど思いつきませんでした。