私の心なんて。



目が覚めると、目の前には白い天井が広がっていた。自分の部屋ではない。


「っ、」


起き上がろうと腕を動かすと違和感。見れば点滴をされていた。ここは、病院だろう。あぁ、そうだカミュが来てくれて倒れたんだ。碌に寝ていなかったから、寝不足、かなぁ。


「麗奈」
「…え、あ、シャイニー」
「体調は、大丈夫なのか」


大丈夫です、と答えるとシャイニーは私の頭を軽く叩いて緩く笑った。今のシャイニーは、シャイニーであってシャイニーじゃない。早乙女さんだ。


「お前が倒れたと聞いて、仕事は全てキャンセルした」
「え…」

「番組出演だけだが…一週間は休めるだろう」


すみませんと頭を下げると、早乙女さんはふ、と笑って椅子に腰かけた。いつものシャイニーも好きだけれど、早乙女さんの雰囲気も好きだ。今は、怖いけれど。


「お前に聞きたいことがある」
「、はい」

「恋人ができたか?」
「できていません」
「そうか…なら、」















「起きたのか」
「、カミュ…ごめんね」
「いや、気にするな
…睡眠不足に過労、栄養失調だそうだ」


働きすぎだ、と頭を優しく撫でられて、麗奈はふにゃりと笑った。


「30分程で月宮が来るらしい」
「あ、ほんと?
…にしても、よく寝たなぁ」
「…3日寝ていれば楽にもなっただろう」


ぱっと顔を上げる。みっか?三日も、寝てた、の?


「っ、提出!」
「動くな。早乙女には日向と月宮が言ったそうだ。お前を働かせすぎだと」
「でも、やらなきゃ。仕事をもらえるのは有り難いことなんだから」


自分の体調不良もできない奴がする仕事はない。カミュの声は低かった。いつもよりも低いその声に肩が跳ねる。


「わかってるけど、仕事してないとおかしくなりそうで」
「…告白のことか」
「今仕事で行き詰まっててね」


メロディが、浮かばない。いつもみたいに音が鳴らない。楽しくない。笑えない、うまく、歌えない。早乙女さんは気付いてた。あの人は怖い、決めたことは曲げないし、なにより力がある。彼らの中の誰かと付き合っていないから何も言われなかっただけだ。


「シャイニーが、…早乙女さんが、気付いていたの。カミュ達が私に好意を寄せてること」
「…なに?」

「どうして知ってるんだってことも、きっと知ってる。それが、早乙女さんだから」


本当なら、言われてすぐに断るべきなのだ。この世界で生きていきたいのなら。告白をされて優越感があるわけではない、けれど断ってもいないのだ。誰とも付き合う気がないのならすぐに断るべきなのに。

けれど、怖いんだ。


「もし断ったら、皆が離れてくんじゃないか。今までみたいに笑って話せなくなるんじゃないかって」


有り得ないって、言ってくれるだろう。でも、


「馬鹿者」
「うん、知ってる
私は馬鹿だし、狡い」


好意が嬉しい。けれど誰とも付き合わず断ることはせずに待たせたままの、最低な女。


「カミュ」
「麗奈?」

「ごめんなさい、カミュと恋人になることはできない」


しっかりと、目を見て告げる。

私は誰とも付き合わない。この仕事が好きだから、皆が好きだから。博愛主義というわけじゃないけれど、今までと同じじゃいられないけれど、このままの関係が好きだったから。


「…その言葉は、予想していた」
「ごめん」

「だが、俺は諦めるつもりはない」
「カミュ、」

「例えお前に断られようと、俺はお前が好きだ。これは変わらない、変えられはしない」


真っすぐ、射抜くような目に苦しくなる。その言葉は嬉しいものなのに、今の私には苦痛でしかない。

悩みたくない、つらいのは嫌だ。

あの目を、見たくない。


私の心なんて。


(シャイニーは、絶対だ)


20130921
更新強化しようと思っていたのにいつの間にか10日近く経っていました。
そしてなぜか急展開を迎えてしまうという。本当はもっと後の予定だったのですが。