きす、しちゃった。

されちゃった、東堂に。
まさか、あんなにも優しく奪われると思っていなかった、私のファーストキス。もっと、もっと甘い空気で、雰囲気で、大好きな人にされるのが夢だったけれど。

あのあと、東堂はすまない、と顔を赤くして離れていった。部員には見られていないと思う。それだけが救いだ。

新開に、ふられた。はっきりとふられた、のに。あの時は、辛くて苦しくて、消えてしまいたいって思ったのに。どうして、かなぁ。

「思ってたより、つらくない」

それに、ふられたことよりも、東堂にキスされたことがぐるぐるめぐる。そっと、自分の唇に触れてみた。あの、唇が…わたしのくちびると。うわぁぁあぁぁあああ…どうしよう、どうしよう、どうしよう。

かお、あっつい。

「ばかとうどー…うぅ」

東堂、いまなにしてるかな、ああそうだ尽八って呼ばないと怒られちゃうかも。尽八に、連絡してみようかな。結局、ふられたこと言えなかったし、ちゃんと、言おう。

わたし、新開にふられたよ。もう、すっぱりと諦めるから。

送って1分と経たずに着信を知らせる音が鳴る。画面を見ると「東堂尽八」と表示されていて、慌ててでる。

「と、とうどう」
「本当なのか」
「え、と…うん」
「告白、したんだな」

「ちがうよ!ごめんって謝られて、なんでってきいたら、気持ちに応えられなくてごめんって、言われたの」

だから、直接告白は、してない。
東堂は、そうかと小さな声で呟くように言った。低くて、明らかに、怒っている声だ。

「じんぱち?」
「…好きだ」
「うぇ、うぁ、ど、したの」
「そんな言い方をされて、傷ついて、まだ新開のことが好きか?」

言葉に詰まった。好きと言う気持ちを簡単に消せないし、無かった事になんてできない。あんな言われ方をされても、直ぐに消せる気持ちでもない。かと言って、これからも好きでいるのかと聞かれたらそういうことでないと思うのだ。あんなにきっぱりふられたんだ、私の気持ちは、新開にとっては迷惑なのだろう。

「諦めるよ。…だってさ、尽八が言ったんだよ?オレを惚れさせたんだから覚悟しろって」
「それは、もう気にせずにお前にアプローチをかけて良いということか?」

「…忘れさせて、なんて言わない。
けどね、尽八がそばにいてくれるって思ったら、不思議とつらくないっていうか…。なんかこんな風に言っちゃうとずるいけど、新開のことも、ショックだし辛いけど、尽八のおかけで、私元気でいられてるよ」

素直な気持ちだ。尽八には感謝しても、し足りない。尽八に向き合いたいんだ。こんな、こんな私を好きだと言ってくれる尽八にこたえられるように。

「それに、私と尽八は一応付き合ってるんでしょ」
「あぁ、そうだな」
「だからね、こう言ったら、東堂は怒るかもしれないし幻滅するかもしれないけど…東堂のこと、好きになりたい。こたえたいの」

暫しの無言が続いて、私としては気まずい。
やっぱり、やな女の印象、なのかなぁ。

「お前から好きだと言ってもらえるように、頑張るから」
「…うん。ありがと尽八」
「ありがとうはこっちのセリフだ」

先程までの怒っていた声ではなく、優しい、優しい声だ。まるで包まれているような。言葉が、声が、話し方が、すべてから愛が溢れているみたいで、泣きそうになった。

「明日、仕切り直しで一緒に昼をたべないか?」
「た、食べる!絶対に食べる!」

「それで、だな」
「ん、どしたの」
「図々しい願いなんだが、その…」

もしかして、と思って尽八の分も作るよと言えば嬉しそうにいいのか!?と声をあげた。楽しみにしてて、と笑えばさらに嬉しそうで、私まで、なんだか嬉しくなってくる、

明日は二人分、そう決まれば早めに寝なくては。尽八は何が好きだっけ、定番をつめていって、気に入ってくれたものをまた入れていくようにしようかな。なんだか楽しくなってきて。新開に言われたことが頭を掠めたけれど、私はこれから東堂を好きになるんだと頭をフルフルと振って布団に潜り込んだ。

(なにが好き、かなぁ)

20141222