「弁当、なんだな」
「え、うん…今までも作ってきたことあるじゃん」
そう、だが。ちらちらと私の弁当を見ている尽八に、食べたいのかなぁと考えて本日1番上手にできた玉子焼きを尽八の口元に持っていく。ぽかんと口を開けて、え、え、と困惑気味の尽八が可愛らしい。
「あーん」
「え、な、ばっ…!」
「いらない?」
「……い、る」
かあああ、と顔を真っ赤にした尽八は、目を閉じて口をあけた。その口に玉子焼きをいれると、ぱちっと目を開けて、笑った。
「うまいな」
「へへ、今日うまく焼けたんだぁ」
「なまえの玉子焼きは甘いんだな」
「出し巻きも作るけど、基本は甘いかな。…もしかして苦手だった?」
そうじゃない、と東堂は慌てたが、ふわりと柔らかい笑みを浮かべて、お前が作るもので嫌なものはないぞ、と言い切った。聞けば、東堂に嫌いな食べ物はあまりないようで、やはりご実家が旅館だからかしっかりしているんだなぁ、と思った。
「こんど、作ってこようか」
「いいのか?」
「ん、いいよ」
「嬉しいが…マネージャーだって忙しいだろう」
尽八が喜んでくれるなら、作る。と言えば、狡いなお前は、と眉を下げて笑った。そんなつもりでは、なかったんだけど。
「あ、予鈴」
「そろそろ、行くか」
「…うん、」
なん、なんだろう。午後の授業が面倒くさいとか、そういうのもあるんだけど、この、空間がなんだかすごく、落ち着いて。戻りたく、ないなぁ、とか思ったりして。
「どうした?」
「…戻りたくない、な」
「……新開に、変に勘違いされるぞ?」
「じん、」
俯いて言った言葉に、東堂は自嘲気味に返してきた。思わず顔を上げると、またあの顔だ。わたし、東堂の苦しそうな顔ばっかり見てる。見ていられなくて、また俯いた。
「…いいよ、」
「オレと、如何わしいことをしていたと、勘違いされていいのか?」
「いい、だって、付き合ってるんでしょ私達。そういうことだって、いずれするじゃん」
いま、わたし顔真っ赤じゃないかな、大丈夫かな。女の私がなに言ってるんだって、引かれたかな、大丈夫かな。東堂、わたし言ったじゃん。東堂のこと好きになると思うって。
だから、だからね。調子がいい、都合がいいって怒られるかもしれないけど、ちゃんと、向き合っていこうって思うんだよ。
新開に彼女がいて、泣きたかったあの日、苦しくて仕方が無いって思ったのに、こんなにもいま心が楽なのは、苦しくないのは、東堂のおかげなんだよ。
「…すまない、教室に戻る」
「じん、ぱち」
「また、部活でな」
(わかんない、わかんないよ)
2014.11.19