噂というのは怖いもので、次の日学校に行くと色々な人に好奇の目で見られた。仕方ないのはわかってる、だって相手は東堂なのだから。それに部活前とはいえ抱きしめられたのだ、付き合っていると思われるのは当たり前だろう。
朝練を普通に終えて、三年揃って校舎に向かっている。荒北がちらちらと私を見ているのは気の所為じゃないと思うけど、いちいち噛み付かれて体力消費するのが面倒くさいから気付かないふり。

「なまえ、」
「ん?」
「今日、一緒に昼を食べないか」
「いいよ、食べよっか」

昨日、東堂のこと好きになると思う、なんて言ってしまった私は、変に東堂を意識してしまっていた。我ながら最低な女だと思っている。ほんの2、3日前に新開が好きって気付いたばっかりなのにね!…自分を殴り飛ばしたい。

正直、東堂からの誘いを新開が聞いていると思うとドキドキと心臓がうるさいのだ。新開は気にしてないみたいだけど…あ、つらい。昼を一緒に食べるのは全然嫌じゃない。付き合う前から、新開への気持ちに気付く前から2人で食べることもあったし、出掛けたことだってあった。
今までと、何ら変わりがないんだ。ただ、付き合うって、恋人という枠にはまるようになっただけで。…全然変わる、私馬鹿だ、東堂のファンの子にどやされるの確定じゃないか。…わたし、いじめられたりしないよね大丈夫だよね。(大丈夫だと思いたい)

「やっぱり付き合うとかわるものなんだな」
「これからは、全員で食べることが少なくなるかもしれないな」
「いーんじゃネェのォ?うるせーのが2人いないだけで静かにメシ食えるんだし」

「うるさくてわるかったね」

べ、と舌を出して先に歩き出す。そろそろ予鈴だ。新開、いくよーと言えば頷いてついてきた。今日も一日頑張らないとである。
後ろの東堂が、眉を寄せていたなんて、私は全く気づいていなかったのだけれど。

4限目は移動教室で、新開と2人で向かっていた。いつもの光景だ。

「なぁなまえ」
「なに?」
「尽八と付き合ったのは、なんでだ?」
「そうだなぁ…なんだろう、成り行き、でいいのかな」

言うと、新開は私の言葉を繰り返して、私の肩を荒々しく掴んだ。驚いて足を止めた私は新開を見る。怒って、いるみたいだ。やっぱり、成り行きって言葉が駄目だったよね、どうしよう。けど新開が好きだけど、彼女いるし失恋したところを尽八が見てて、とか正直に話すわけにはいかないし。

「尽八に。失礼だと思わないのか」
「…わかってるよ」
「なら、なんでだ」

痛いところを突かれた。自分でもずっと思っていたことだ。私にとっても、新開にとっても大事なチームメイトの尽八。そんな尽八を弄ぶ嫌な女だと、新開の目にはうつっているんだろう。つらい、物凄く。ほら、やっぱり後悔だ。ごめん尽八、尽八が悪いわけじゃないけれど。あの時、振り払えなかった私が悪いんだ。

「私さ、失恋したばっかなんだ」
「その現場、東堂に見られてね、オレにしておけって、言われてさ、東堂を傷付けるから無理だって言ったら、抱きしめられちゃって」
「嫌なら振り払えって、言われたんだけど」

振り払えなかったんだ。

新開の目が見れない。
軽蔑された?哀れんでる?怒ってる、よね。まず、このことを正直に言ってしまったことが問題だ。ごめん東堂。東堂には謝ってばかりだ。

やばい、泣きそう。顔を上げれなくて、目頭が熱くなって、歯を食いしばった。こんなところ、見られたくない。悪いのは自分なのに、泣いちゃダメだ、泣くのは間違っている。

「つらかったな、」
「え、」
「悪かった、二人の問題に首突っ込んじまって」

ぽん、と頭に何かが置かれて、ゆっくりと顔を上げる。新開が、困った顔をして私の頭を撫でていた。ぶわあ、と視界が歪む。慌てた様子の新開に、ごめんと言えば、オレこそごめんと謝られた。

(ちがう、ちがうの。好きになってごめん)

2014.11.17