泣きそうだ、と思ったとき。ぐいっと後ろに引かれた。かたい胸板に顔があたって、変な声が出てしまう。ふわりと香ったのは、昨日抱きしめられた時と同じ。

「なまえ」
「じん、ぱち」
「朝から熱いな、お二人さん」

「新開、フクが呼んでたぞ」
「お、了解」

新開はまたあとで、と言って去っていく。足元が遠くなって、周りの声がざわざわと聞こえてる。そりゃそうだ。三年の先輩二人が部活始まる前に抱きしめあってたら、

「大丈夫か」
「大丈夫だよ」
「…泣くな、」
「だからだいじょ、」

なんてかお、してるの。ねえ、ねえ東堂。
そんな苦しそうな顔で、そんな泣きそうな、顔で。

「尽八、」
「なまえ」
「なに、」
「好きだ」

思えば、好きだと言われたのは初めてな気がする。見ていた、とは言われたけれど。人が見ているのに、新開が見ているかもしれないのに、東堂に、ぎゅう、と抱きついた。

「尽八」
「ん?」
「わたし、尽八のこと、好きになると思う」

私の素直な気持ちだ。だって、こんなにいい男、惚れないわけ、ないよ。今すぐは、無理だけど、きっと、尽八と、幸せになれる気がするんだ。だって、この人はとても綺麗な心を持っているから。こんな私のこと、好きだと言ってくれる。待つと言ってくれる、すごく、素敵な人だから。

「当たり前だろう、オレは箱学1の美形だからな」
「そうだね」
「なまえ、」
「なに?」

「覚悟するんだな、オレを本気にさせたこと」

さっきの顔とは打って変わって、尽八は笑った。

(私が彼を好きになるのはそう遠くない未来)

2014.11.14