好きだなぁって気付いたときにはもう遅かった。もう隣には素敵な人がいたのだから。

新開が好きだ。そう気づいたのはつい先程のこと。新開が、見たこともないような優しい顔で隣のクラスの女の子に笑いかけていた。今まで気にしたことはなかったのに、新開と一番仲が良いのは自分だと思っていたのに。ただの自惚れだったのだ。だって新開は、私の前であんなに綺麗に笑わない。

「なまえ?」
「…東堂」
「どうした?そんなところで」

不意に話しかけてきた東堂に悟られないよう、私はなんでもないように笑う。東堂の視線の先には新開がいた。すると、いつもは自信たっぷりの東堂の表情が歪む。

「見たのか」
「なにを?」
「新開と、彼女を」

東堂は、知っているようだった。新開があの子と付き合っていること、そして私が新開を好きなこと。自分で気付いたのはついさっきなのに、知られていたなんて。なんだか、恥ずかしい。

「私さぁ、新開のこと好きなんだって、さっき気付いたんだよね」
「そう、だったのか」
「そ。新開があの子に向ける笑顔見てさ、ああ私は新開にあんな顔させられない、されたことないやーって。それで、私は新開が好きだったんだなぁって」

気付いた途端、失恋しちゃった。
おどけてみせるけれど、東堂は難しい顔をして私に近付き、まるで壊れ物に触るみたいに、優しく、優しく私の頭を撫でた。

「無理をするな。そんな顔、見たくはない」
「東堂、」
「なまえが新開を好きなことは、オレしか知らないだろう。大丈夫だ」
「なんで、」

東堂は、気づいたの。口にする前に、東堂が口を開いた。じっと見つめられて、目が離せない。

「お前が新開を見ていたように、オレがお前を見ていたからだ」

瞬間、風が吹いた。
信じられない、きっと私はそんな顔をして東堂を見ただろう。東堂は、そんな私の肩を優しく掴んで、引き寄せた。とん、と東堂の胸元に頭が当たって、どくどくと心臓が鳴る。

「なまえ」
「な、に」
「オレにしないか」
「…え」
「新開を好きでもいい。だが、必ず忘れさせるから、オレと」

オレと、付き合ってくれ。

冗談ではないと、わかる。思わずぶるりと震えてしまった。私は新開が好きで、失恋して、東堂は私を好きで。けれどここで頷くなんてしたくなかった。だって、そんなの。それに忘れるなんて無理だ。気づいた、ばかりなのだ。

「むりだよ」
「新開が好きなのにオレと付き合うのは、失礼だと思っているんだろう」
「当たり前でしょ、だって…そんなの東堂がつらい、傷付ける」
「…優しいんだな」

違う、そんなんじゃない。私だって傷つきたくないし、東堂に甘えてしまったら、東堂の気持ちも、私自身の気持ちも、踏みにじることになるから。そんなの、嫌だ。東堂が優しいなんて知ってる。ナルシストなところは玉に瑕ではあるが、東堂はとてもかっこいいのだ。優しくて、周りをきちんと見ている。

誠実な、男なんだ。
だから、だめだ。そんな東堂を、傷付けるなんて、いやだ。

「傷ついたっていい。むしろオレがずるいんだ。失恋したお前に、弱ったところに付け込んでいる。お前はずるくなんてない。ずるいのは、オレだ」
「東堂、」
「それでも無理なら、嫌なら、振り払ってくれ。そうしたら、諦めるから」



(振り払うなんて、無理だった)

2014.11.14