春は別れの季節である。
寮生活が終わり、一人、また一人と退寮していく中わたしは一人寮の中を、散歩していた。ここで、友達と喧嘩したなぁとか、先輩に怒られたなぁとか。
寮母さんと仲良くなって、門限を少しすぎても内緒にしてもらったこともあったなぁ。全部ぜんぶ、私の大事な思い出だ。

最後に、校舎でも見に行こうか。先生に、もう一度挨拶に行こう。もしかしたら後輩に会えるかもしれないし。
少しの荷物を持って、校舎に向かうとちょうど部活が始まる時間だったようで泉田くんと黒田くんがいた。
邪魔するのもアレだし、と思っていたら泉田くんが走り寄ってきて、首を傾けた。いったいどうしたんだろうか。

「なまえさん、先程校舎に東堂さんが向かっていましたよ」
「あ、そうだったんだ?ありがとう泉田くん。部活、頑張ってね」
「ありがとうございます。先輩も、大学生活頑張ってください」

ぺこりと頭を下げて泉田くんは去っていく。
大学生活。わかってはいたけどやっぱり寂しいものだ。この校舎に来るのは次はいつだろう?滅多にこれなくなるんだ。


「なまえ!」
「東堂、お疲れ様」
「来ていたんだな」
「うん、そろそろ出発するから最後の最後に先生に挨拶しようかなって」

先生に挨拶し終えて校舎から出てすぐに東堂に声をかけられたからちょうど良いタイミングだった。聞けば東堂は部に顔を出していたようだ。
今日、東堂は実家に戻るらしい。本当に、あまり会えなくなるんだ。

「駅まで送るから、一緒に行こう」
「え、いいよ東堂ロードでしょ?」
「少しでも、一緒にいたいのだ、良いだろう?」

そう言われてしまうと、断れないじゃないか。頷くと東堂は嬉しそうに笑った。どくん、どくん。すき、すき。

「ありがとう東堂、それじゃまた連絡するね」
「なにかあったらすぐに…いや何もなくても連絡するんだぞ!」
「わかってる、けど引っ越しして2,3日はばたばたしてるからあまり連絡できないかも」

言うと東堂はしょぼんとした顔で、さらには口を尖らせた。子供か、と言いたくなったけれど、それすら愛おしい。あぁ、好きだ。離れたくない。

「尽八、すきだよ」
「い、ま」
「だいすき」
「オレも、なまえが好きだ」

ぎゅう、と抱きしめられて、抱き付いて。このまま時間が止まれば良いのにと、何度も願った。











「おはよー新開、まぁた食べてるの?」
「はよ。元気そうだな」
「まーね、落ち込んでられないし?」
「遠距離なんて無理ーって泣いてたのが嘘みたいだな」

はは、と笑う新開の脇腹をぐーで殴る。折角元気になってきたのにどうしてこいつは抉ってくるんだろう。しかも笑顔で。本当、良い性格をしてる。

「遠距離遠距離って言ってるけどな、」
「あーもうやめて、新開うるさい」
「つーかさ、なまえはオレのこと好きだと思ってた」
「はぁ?自意識過剰おつです新開くん気持ち悪い」

「尽八のどこが良いんだ?ウザったそうにしてただろ」
「どこがって…どこかなぁ。別に顔とかで好きになったわけじゃないからよくわかんない。人前では見せない素、かなぁ」
「顔じゃない?じゃあいつ好きになったんだ?」

「中2の時だから…もう5年?好きになったのはなんでか覚えてないんだけど、ロードで走ってるじん…東堂がすごく真剣な顔で、けど楽しそうで、応援したいなって思ったのが始まりだよ」
「へぇ…」

「話してみたらめっちゃウザいしどうしようかと思ったんだけど、そこも好きになっちゃったからもう末期だよねぇ」
「ウザくはないな!」

「…は?」

後ろから聞こえた声に振り返る。そこには、

別れの春、始まりの春

(愛しい愛しい、彼がいた)

20141105