東堂に連れられて来たのは箱学自転車競技部のメンバーが集まるレストランだった。
私が来ても良いのか聞いたら、東堂はいつもの自信満々の笑みを浮かべて当たり前だろう!このオレの恋人なのだからな!と胸を張って言い出した。
言われて、かっと顔がまた熱くなる。さっきも熱くなったばかりだというのに。そして、外はまだ少し肌寒いというのに。

「あれ、なまえじゃないか」
「東堂さん、うまくいったんですね!」

新開、真波くんの言葉である。私がいることを驚いていない様子の箱学新旧レギュラー陣は、もしかしなくても東堂の気持ちを知っていたのだろう。どうしよう、恥かしくて帰りたい。
卒業おめでとうの集まりと称した最後の追い出し会は、皆の笑顔と涙でいっぱいで。私は部活のメンバーじゃないのに快く受け入れてくれたこの人達が本当に良い人達であたたかい人達だということが改めてわかって、東堂が少し羨ましかった。私も、部活にはいればよかったなぁ。

「気を付けてな」
「送り狼にならないようにな、尽八」
「な、なななななな新開なにを言っておるのだ!そんなことにはならん!!」

顔真っ赤で言っても信用できないよ東堂、という言葉は飲み込んで。皆に見送られて私と東堂は店を出た。
福富、新開は大学も同じなので一か月以内に会うかもしれないけれど、荒北は洋南だからもう会えないかもしれない。けど、ここまでの縁じゃないだろうし、またね!と声をかける。


それから、東堂とはほぼ毎日会っていた。東堂が会いたいと言ってくれて、私も会いたくて。
東堂のご実家に招待されたときは緊張で吐きそうになった。さすがに吐きはしなかったけど。というか東堂そっくりのお姉さんに会って本当にびっくりした。そっくりすぎる。ただお姉さんにたじたじの東堂が可愛かった。好きがまたひとつ増えた瞬間だ。

東堂は照れ屋かと思ったらそんなことなくて、むしろ私を照れさせてニヤけていることが多かった。不意打ちにはやはり弱いようだけど、私の何枚も上手だった。
悔しいかと聞かれれば悔しいけど、言葉で、行動で好きだと伝えてくれる東堂と一緒にいられることがとても幸せで、嬉しくて仕方なくなかったんだ

「なまえ?」
「え?」
「ぼーっとしているな、何かあったのか?」
「そろそろ引っ越し準備しないとなって」
「なまえは進学だったな」
「うん、福富と新開と同じ明大だよ」

そうか、と言って黙った東堂に、あまり会えなくなるねと言えば、眉を下げてそうかもしれんな。と東堂は笑った。
私はこの顔が好きだった。困った顔にときめくなんておかしいかもしれないけれど、好きで。困らせているのが私だと思うと、申し訳ないと思う反面嬉しいと思った。

「東堂」
「どうした?」
「私ね、遠距離って絶対無理な人間だと思ってるんだ」
「…あぁ」

「だからね、本当は東堂に好きだって、伝えるつもりなかったの」
「けど、色んな人が背中を押してくれてた。諦めるなって、伝えろ、砕けても良いだろって」
「その人達にすっごく感謝してる。良い友達ばかりで幸せだなって。今も、こうして東堂と笑いあってるのが、すごく幸せ」

「だからさ、私頑張る。遠距離に、負けたりしないから」

青春時代を駆け抜けて

(「だから私のこと、好きでいてください」)

20141105