「今晩、会いに行って良いか?」

そんな東堂の言葉を聞いたのは今から6時間ちょっと前のことだ。あれから私は荒北に連絡をして礼を言って、なんでかキレられて。最後によかったネ、とぼそり言われて。良い友達を持ったなぁって嬉しくなった。
昼は家族で食べた。夜は寮で食べる予定だけど、今日は卒業生の分は作らないと事前に言われていたので、もしかしたら仲の良い女子メンツで誰かの部屋に集まって食べることになりそうだ。そんなことができるのは今日で最後になる。
明日から一人、また一人と地元に、実家に、そして進学先、就職先に移動していくのだ。そう考えたら、急に泣きたくなった。

「ほーらなまえできたわよ!」
「え、ちょ、化粧がっつりしすぎじゃない!?」
「そんなことないない!東堂くんに会うんでしょ?これくらいしないとー」

…言ってない。私そんなこと友人たちに言っていない。なぜ知っている、誰から聞いた。
私の友人の中に、東堂のファンの子、そして東堂に本気で恋をしていた子がいる。その子たちは、悔しいはずなのに、にくいはずなのに、笑顔で背中を押してくれた。頑張っておいで、と。

「私たちとなまえの最後の夜を東堂くんに渡してあげるんだから、とびっきり可愛いなまえの姿を見せてあげないと」
「今日はチューまでね?それ以上は私おこだから!」
「悔しいけど、私結構前にフラれてるし!いいし!!なまえが幸せになるならいいし!!ばか!!」

嬉しい嬉しい友達の言葉。なんだよ、ここでも泣かせてくるの?ばか、馬鹿はどっち。…わたしか。

「あぁもう泣かないでって!化粧くずれちゃうから!」
「ブサイクになって東堂さまにフラれちゃえとか思ってないし!」
「アンタは黙ってなさい!…なまえ、いっといで」

いってきます、手を振って寮を出た。ら、寮の前に東堂が立っていた。

「東堂、」
「来たな」
「待たせてごめん」
「いや、そんな待っていないから気にするな」

では行くか、と東堂は私に手を差し出してきた。この手を、私は握って良いのだろうか。
差し出された手を見ていると、東堂は私に手を伸ばして、私の手をとった。あたたかくて、とても大きいそれに、一気に心臓が騒ぐ。

「晩は、何を食べるか決まっているか?」
「ううん、皆で食べる予定だったけど、コンビニで買って食べるよ」

悪いことをした、という顔をしたけれど、すぐに訂正した。東堂と会うことを選んだのは私なのだから、東堂が責任を感じることはない。ただ、嘘をつきたくなかっただけだから。

「東堂は気にしないでいいよ。私が、東堂に会いたかった、から」
「っ!?」

言いながら、声が小さくなっていくのが自分でもわかる。そしてなんていうか、恥かしくて顔が熱くなる。ちらり、東堂を見ると私を見ながら口をぱくぱくと開閉して、まるで金魚のようだった。明らかに照れているのがわかる。

「お、まえは…!」
「ご、ごめん」
「謝らなくて良い!だが、心臓に悪い!」
「だって!」

「…もう一度聞くが、本当に、オレのことを好いてくれてるんだな?」
「私は聞いてない、東堂は、本当に私のこと、好き、なの?」

顔を真っ赤にしたままの東堂の顔がゆっくりと近付いてくる。ふ、と私の前に影が落ちて。
なんでだろう自然に、そう本当に自然に、目を閉じた。

青い春に出会った恋は

(間違ってなんかなかった)
(すきになってよかった、本当だよ)

20141105