好きな人は私の前を歩いていた。
色々な人に声を掛けられながら、笑顔を振りまいて。

ボタンください、なんて一体何人に言われたの?ねえ、こっち向いてよ。

「なまえではないか!」
「あ…」

こっち、向いた。
新開くんと話していたはずの私の好きな人。東堂尽八はくるりと後ろを向いて私を見つける。なんでわかったんだろう。私がじっと東堂を見てたから新開くんが言ったのかなぁ。もしそうなら恥ずかしい。
3年間…ううん、もう4年かなぁ、中学時代から東堂のことが好きだった。どうして、と聞かれてももうあまり覚えていないくらいほんの些細なことで好きになったけれど、高校も一緒でさらに人気になってしまった彼とあまり話す機会もなくなってきたと思っていたのに。

最後の一年、私は東堂と同じクラスになって、その前の年は新開と同じクラスだった。一年の時は福富とだ。見事に東堂がよく話す2人だったから何故だろうよく会話をしていた気がする。けれど私は東堂ファンクラブの人みたいにキャーキャー言うこともなかったし、むしろ東堂と言い合いすることが多かった気がする。
新開と付き合っていると噂されたこともあって東堂が勘違いしたこともあったなぁ。なんて、今では笑い話の懐かしい話だ。

「どしたの東堂」
「新開が、なまえが後ろにいると教えてくれたからな」
「何か、用事でもあった?」
「あぁ…少しな」

ふい、と目を逸らして少しだけ照れくさそうに言った東堂に疑問符。なぜ?というか、これから離れてあまり会えなくなるはずなのに、同じ部活のメンバーと一緒にいたほうが良いのに。
その照れくさそうな態度に、期待してしまいそうになるんだよ。

「あれ、」
「どうした?」
「東堂ボタン減ってないじゃん。ほしいって言われなかったの?」

なんて言ってはみたけれどそんなはずはないと思う。だって人気者の東堂だから。私なんぞと話していないでファンの子と話せばいいのに。ほら、今も視線を感じるもの。東堂と最後に話したい、想いと告げたいと思う子がたくさんいると思うんだ。
けれど、そんな中私に声をかけてくれたということに少しの優越感。今までたくさん話して、仲良くなって良かった。ごめんねファンの子たち。私も、私も東堂が好きだから。今だけはこの場所を譲りたくないの。

「なまえ」
「ん?」
「教室の、なまえの机の中を見てくれ」
「え、なにどういうこと」

「言ったからな!絶対に見るんだぞ!」

え、え、と言っている間に東堂はファンの子たちに囲まれながら新開達、自転車競技部の輪に戻っていった。

「私の、机の中」

そこに、一体なにが。けれどきっと悪いものじゃないんだろう。それはわかる。けれど、勇気がない。もし私の予想が正しいのなら、絶対に泣いてしまうからだ。


(さっき、東堂の制服の第二ボタンだけがなかったんだ)
(机の中に手を入れればそこには)

第二ボタンは恋の証

20141105