ずっと夢だった。こうして隣に並ぶことが。
あなたが見てるのは可愛いあの子。私なんて視界にも入らないと思ってたの。

「ごめんね、忙しかったでしょ」
「大丈夫、今日はオフだったし予定もなかったから」

そう言って笑う音也くんに癒される。社長からの命令で、音也くんのソロ曲を担当することになった私。林檎先生に渡された番号に電話をかけて、音也くんと会うことになったのだ。
学園にいた頃から思っていたけど、音也くんは本当に人懐っこいというか、やさしいというか。話していて本当に楽しいと思わせてくれる。好きだなー、なんて思ったけど、彼はあの子が好き。それは、学園にいた頃からずっとわかってた。

「一応何曲か作ってきたんだけど、聞いてもらえる?」
「オッケー」

イヤホンを耳につけて聞き始めた音也くんの顔を見つめてしまう。音楽が本当に好きなんだなってわかる顔だ。指でリズムをとってる姿が可愛い。

「…そんなに見られてたら、照れるんだけど、さ」
「うぁ、ごめん!」

頬を指でかきながら、ほんのり赤くした顔を向けられて、私まで顔に熱がこもる。
また曲に集中した音也くん。私は五線譜を出して目の前の音也くんを考えながら浮かんだメロディを書き込んでいく。

「すご…」
「へ?え、あ、一十木くん?」

はっとして、顔を上げると音也くんの顔が近い。あ、やばい心臓がばくばくしだした。集中しすぎていたようで、音也くんは聞き終えていたようだ。

「すごい、オレ、君の曲すっごく好きだよ」
「あ、あああああああありがと」
「ふは、なんでそんなどもるの?」

楽しそうに笑う音也くんに見とれる。やばい、かっこいい、かわいい。ぽん、と頭に乗せられた手に、だめだ、息できない。

「い、一十木くん、ち、近い…!」
「え、あ…ごめん」

音也くんも、少しだけ顔が赤い。やばい、やばいやばいいいいいいいい!

「オレ、学園にいたときから、君の曲好きだったんだよ」
「え、うそ…!」
「ホント、ペア組んでる人うらやましいなーって思ってた」

オレンジジュースを飲みながら音也くんは言う。でも、だって、音也くんは、あの子が。あの子の曲を歌うことが楽しそうで。あの子の曲以外に、興味がないと、思ってたのに。

「歌う人のこと考えて、すごく歌いやすそうだったし、なんていうのかな
歌ったら楽しそうだなって、曲にストーリーがある、みたいな」
「う、うわあああ…」

恥ずかしい、そんな風に思ってくれていたのはすごく嬉しい。
ていうかうれしくてどうにかなりそう…!

「顔、真っ赤」
「だ、だって一十木くんが…!」
「オレが、なに?」

にっこり、笑う顔は楽しそうだ。もしかして、もしかしてだけど、私の気持ち、知ってたり…する、のかな。

「一十木くんは、あの子の曲しか歌いたくないのかと、思ってた、から」
「あの子?」
「七海さん」

あぁ、と音也くんは言うと、そんなことないよと笑った。

「七海の曲も好きだし、歌うの好きだけどさ、君の曲は七海と違うし。
なんていうんだろう、君の曲の世界にオレも入りたいって、思ったんだ」

だから、

音也くんは真剣な顔にどきりとした。

「今回の新曲も、君の曲がいいって社長に頼んで、さ」
「え、」
「君と、仲良くなりたいなー、なんて」

へへ、と照れ臭そうに笑う音也くんに、私は。

「わ、私も、お…一十木くんの歌すっごく好きで!
学園にいるときも、ペア組めたらな、とか…事務所入ってからも!
一十木くんの曲作りたくて、あの…家に、一十木くんのためのデータとか、その」

ああ、なにが言いたいの私、目の前の彼はぽかんとして口を開けている。私が言いたいのは、言いたい、のは。

「一十木くんの、ソロのときだけでいいから、私を、」
「…やだ」
「え…あ、だよ、ね」

「そうじゃなくて、ソロだけはやだ
仕事だけじゃなくて、オフでも、一緒にいてほしいよ

知りたいんだ、君のこと」

全然、知らないから。だから、オレのことも知ってほしいし、君のこと、たくさん知りたい。

あまりに真剣な顔で言うから。私は、思わずうなずいた。お願い、夢なら覚めないで。でも、これが夢じゃありませんように。

音也くん、あのね。
今までは、憧れてただけなの。視界に入れたらいいなって夢見てただけなの。
いつか音也くんのためだけに曲を作りたいなって思ってたの。

隣に立つのが、夢だったの。

「だからさ、ソロだけなんて言わないでよ」
「…ん、あり、がと。私も、一十木くんのこともっと知りたい
もっと、たくさん話したい、私のこと、知ってほしい」

ねえ音也くん、私頑張ってもいいかな。貴方に好きになってもらえるように、貴方にこの思いが伝わるように、もっと。たくさん、たくさん曲を作らせて。

貴方だけの、貴方のための、の歌。

(じゃ、まずは、オレのこと名前で呼んでよ!)
(うぇ…?!)
(だって、さっき音也って呼びそうになったよね?
普段はそうやって呼んでるんでしょ?)
(う、あ…はい)

20130821
初おとやん。
彼の口調もろもろわからなくなってきた。