やはり女性は、笑顔が一番だな。

遠くで聞こえたそれに、私は顔を歪ませた。…というのも、私はあまり感情豊かではなく無表情といわれる部類の人間だからだ。密かに想いを寄せていた東堂の言葉に、ああやはり彼には柔らかな雰囲気の子が合うんだなぁと少しだけだが悲しくなった。本格的に恋をする前で助かった、と思うべきだろうか。

「どーしたァ美月チャン」
「…別に」
「今、珍しく顔歪ませたよなァ?なんか嫌なコトでもあった?」

流石、と思ったが口にはしない。バレるわけにはいかないのだ。私のように愛想もない女が、彼…東堂と釣り合うはずもない。

「何か考え事か?」
「んーん、なんでもないよ」

ガタン、と音を立てて椅子から立ち上がる。予鈴?なにそれ。今の私には関係ない。次の時間はサボろうそうしよう。荒北に適当に言っといて、と告げて教室を出る。予鈴後だからか、周りには人がいない。裏庭の木陰に腰をおろす。このまま午後全部サボってしまおうか。どうせ集中なんてできない、それなら昼寝でもしてスッキリしたい。お腹はお弁当で満たされている。よし、寝よう。木に凭れて目を閉じる。さあさあと揺れる葉の音が子守唄のように耳に届いた。


「…さん、中畑さん!」
「…ん、んー」

声が聞こえる。私の、好きな声。
目を開けるとそこには東堂のドアップ。びくり肩を揺らすとゴン、と頭が木にぶつかった。地味に痛い。ぱちくりと目を瞬かせ、頭を押さえる私を見て東堂は破顔した。なにこの男、可愛すぎる。

「大丈夫か?」
「、大丈夫」
「たんこぶはできていないか?女子の身体に傷がついたら大変だからな!」

笑ったかと思ったら次はわたわたと慌てふためく東堂は可愛い。自称美形(いやほんとにほんとに美形かっこよすぎてつらいくらい)だけど、いやなんていうかファンがいるのも、好かれるのも頷ける。

「中畑さんはおっちょこちょいなんだな、新たな発見だ」

からからと笑う東堂に、私は思わず俯いた。恥ずかしい、見ないで。だらしない締まりのない顔なんて、見られたくないもん。

「中畑さん?」
「え、あ、いや…なんでもないの」
「顔が赤い…まさか熱があるのか?!」
「ないよ、平気」
「いやいやいや、顔を真っ赤にして何を…!保健室だ、保健室に行こう!!」

「行かないよ…それより東堂、部活は?」
「今日は休みの日だ」
「じゃあ早く帰って休みなよ、いつも練習頑張ってるんだし」

ね、と言うと東堂は少し悩む素振りを見せて私をみた。どきり、心臓がなる。近い、近い近い近い近い近い!!

「東堂」
「なんだ?」
「うざい、見すぎ」
「ウザくはないな!」
「ていうか邪魔、どいて」

俺は中畑さんを心配してだな!いや、うざい。ウザくはないな!いや、うざすぎどいてって。人の好意を無下にしちゃならん、ならんよ!いいから早くどいてってば!わあわあぎゃあぎゃあ。
はー、はー、とお互い肩で息をしながら睨み合う。やばい、見つめられてる(睨まれてる)かっこいい、つらい。

「ぷ、」
「く、」
「あは、ふふ…ふはっ」
「…やはり、」

互いに吹き出して、柄にも無く笑ってしまった。やばい、恥ずかしいしかも東堂笑ったと思ったら真顔だしなぜだ。

「中畑さんの笑顔、やっと見れたな」
「え」
「…すきだ」
「…は?」

「だから、好きだ」
「え、はい?ん?わ、たし?」
「他に誰がいるというのだ」

さも当たり前のように言い放った東堂にくらりとした。ゆめ、そうこれ夢だ。きっと夢だ。

「いたた」
「何をして、」
「や、夢なんだなって」
「夢ではないな!」

こんな、都合のいいことがあっていいのだろうか。わたし、ほんと、え?ほんとに?まだ信じないのかって怒られてもいい。だって、ほら東堂はさ、笑顔の女の子が好きなんでしょ私じゃないじゃんね?ほら、うん!

「私、愛想は母親のお腹の中に置いてきたし、感情豊かじゃないし、勉強だってそんなできないし、運動だって普通だし、あの、その」
「なんだそんなことか?それなら俺はこの間の英語で赤点ギリギリだ」
「え、だめじゃん」

思わずツッコミをいれてしまい東堂はムッとする。そして、抱きしめられた。だき、しめられた?え?は?はい?なん、なん…!?

「好きだ。中畑さんの笑顔を見てから俺は、中畑さんを目で追ってしまう。これが恋だと気付いて、早く伝えたかったんだが中畑さんは俺を避けるからどうしようと思っていたんだ」
「と、ととととと東堂…!」
「…顔が赤い。照れてるの、か?」
「う、うるさ…ばか!」

可愛いな、と目を細めながら言う東堂にドキドキうるさい心臓がどうにかなってしまいそうで。東堂ばか、すきだばか。もう、どうにでもなれ。
「東堂、」
「ん?」
「すきだばか」
「俺も好きだぞ!」

ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、幸せだなぁって笑ってしまった。

20141022
初弱ペダ。じんぱちすきい^q^
じんぱちは押せ押せのくせにいざ手を出そうとしたらヘタレて出せないウブな男の子だと思ってる