君の声が好き、笑顔が好き。
もっと呼んで、笑いかけて。
「美月ちゃーんっ」
夏の強い日差しに目を細める。聞こえた声には当たり前だけど覚えがあるし、私をちゃん付けで呼ぶのは彼しかいない。フェンスの向こう、キラキラと光る髪、あぁ綺麗だな、なんて。手を振られて私も思わず振り返した。
「いま帰りー?」
「うん、渚くんは部活、頑張ってるみたいだね」
「もっちろん!だってボク達、全国目指してるからっ」
きゃっきゃと燥ぐ渚くんは、男の子にしては高い声で、顔も可愛いときた。女の私と並んでも顔の小ささとか目立つから、ちょっと泣きたい。
「渚くん!なにしてるんですか!」
「あ、怜ちゃん」
「あ、じゃありませんよ!」
竜ヶ崎くんは陸上部から水泳部に入ったと噂で聞いたけど本当だったようだ。…というか。
「筋肉…素敵…っ」
「え?あ、もしかして美月ちゃんも江ちゃんと同じ…?!」
江ちゃん、と言われてあの目立つ髪色の持ち主がすぐに浮かんだ。何度か話したことがある、ポニーテールのあの子。
「松岡さんって水泳部なの?」
「マネージャーやってくれてるよ。美月ちゃん、知り合い?」
数回話したことがあると言えば、ちょっと待っててねと渚くんはプールサイドを駆けていった。竜ヶ崎くんの危ないですよ、という声は無視らしい。
「失礼ですが君は…渚くんと付き合っているんですか?」
「え?ち、違うよ。…渚くんと私じゃ釣り合わないもん」
私の言葉に竜ヶ崎くんは眉を寄せた。口を開いたと同時に渚くんの声がして隣には松岡さん。
「美月ちゃん、見にきてくれたの?」
「渚くんに叫ばれたの」
「もう、ちゃんと練習しなさい!」
松岡さんに言われてごめんごめんと渚くんは笑って、竜ヶ崎くんとプールまで歩きだした。「美月ちゃん、一緒に帰ろ!」と誘われては、首を縦に振るしかなかった。
「美月ちゃんって渚くんのこと」
「え、あ、えっと…」
「うんうん、青春だなぁ」
「松岡さん…」
「あ、江でいいよ、私は美月ちゃんって呼んでるんだし」
「わかった、江ちゃんね」
部活が終わったらしくて、竜ヶ崎くんに江ちゃん、そして先輩に手を振って私のところまで駆けてきた渚くんにいいの?と聞けば、美月ちゃんと帰りたいからいいのと屈託ない笑顔で言われて顔に熱が篭った。くそう、反則だ。
「美月ちゃん、また明日ね!」
「うん、また明日ー!」
江ちゃんに手を振り先輩と竜ヶ崎くんに頭を下げる。と、渚くんが不意に私の手を掴んで指を絡めてきて思わず声をあげた。
「…駄目?」
「駄目じゃ、ない」
捨てられた子犬みたいな目で見つめられて拒めるはずが…というか渚くんを好きな私が拒むはずがない。恥ずかしい、けどさ。
「ボクね、美月ちゃんと二人で寄り道したりして帰りたいなって思ってたんだぁ」
「そう、なの?」
「うん!だってボク、美月ちゃんのこと好きだし!」
ぴたり、止まる。
いま、いま渚くん、好きって、私のこと、好きって言った?
「えへへ、言っちゃった」
「渚くん、今の」
「ほんとだよ、ボク入学式で美月ちゃんを見てからずっと好きだったんだ」
笑ったと思えば真面目な顔付きになって、繋いでいた手には力が込められる。もう一度好きだよ、と言われて、嬉しくて、泣きそうだ。
「ボクと、付き合ってください」
返事は「はい」だけ
(わ、泣かないで…!)
(ごめ、勝手に…)20130930
なんぞ、これなんぞ。
一回ギャグになってしまいそうになったけど、長くなりそうだったので改変して、違うやつに使うことにしました。
渚可愛い