物思いに耽っている横顔はすごく綺麗で。話したことのない彼のこと、気にしていた。

「あ…、」

同じクラスだけど話したことがなくて、というか彼は人を寄せつけないオーラがあった。なんていうのかな、一匹狼みたいな、そんな感じ。

窓の外を見つめる瞳は朧げで、どこか遠くを見ているんだろう。そんな彼を気になったのは、この間の水泳の大会だった。友達の彼氏が水泳部で、応援に来てほしいと言われたらしく、私まで巻き添えをくらった。
彼の髪の色は深い紅…というか薩摩芋の皮みたいな色だからか目立つ。あぁこの表現はいかがなものかとも思うんだけど。…他校は紺っぽい髪とかいたからそこまで…いやでもやっぱり紅系は珍しいかなぁ。そこで彼の泳ぎを見た。綺麗で、どこまでも泳いでいけそうな、そんな感じ。

「がんばれ、」

小さな声だから誰にも聞こえなかっただろうけど、思わず口から出ていた言葉。見事一位でタッチした彼は、とても嬉しそうで、隣を泳いでいた男の子に向かって何か言ったあと、戻ってきた。

あんな顔、するんだ。
そのときの彼に、目がはなせなくなって。どくんどくん、どくんと五月蝿い心臓は、何かの始まりを示していた。


「…なにか用かよ」
「え、あ…うん、ノート提出、お願い」


楽しそうな、嬉しそうな顔をしていたのはあの時だけ。やっぱり普段は仏頂面で。怖いという思いが勝つんだけど、話してみたいと思ってしまう私だ。チャレンジャーだろうふふん。他の子達も、彼をカッコイイとか言ってるけど話し掛ける勇気はないようだ。


「…ほら」
「ありがと
松岡くんて、綺麗に泳ぐんだね」


は?と目を見開いてこっちを見てくる松岡くん。あ、この顔も初めて見た可愛い。


「この間の大会、見に行ったの。松岡くん、早いし綺麗で、感動しちゃった」


この時私は、なにを間違えたのだろう。自分の思ったことを言っただけなのだ。だって、綺麗だった、素敵だった、なんの抵抗もなく水と遊ぶ、そんな感じだった。早くて、動きはしなやかで、かっこよかったんだ。


「…もう、その話はすんな」
「え…?」
「俺に、二度と話し掛けるな」


ねぇ、なにが悪かったのかな。初めての会話がこの話だったから?なんで、なんでよ。

悲しくないはずなのに、私は泣いた


身勝手な鮫に
泣かされる


(なんで辛そうなの)
(聞きたいのに)
(聞けないや)


20131009
りんちゃん打とうとすると八割方悲恋の方向に向かうという