「美月起きて、遅刻するよ?」


夢の中で大好きな彼が私に笑いかけてくれる。大きな手で私の頭を撫でてくれて、ちょっとだけ顔を赤らめて好きだよ、なんて。なんて幸せな夢だろう、このまま起きたくないなぁなんて思っていたけれど、ゆさゆさと揺さぶられて、仕方なしにゆっくりと目を開けた。


「やっと起きた…美月、ハルのとこ迎えに行かないと」
「…ま、こと…?」

「寝ぼけてる…もう、美月」
「真琴だぁ…っ」


目の前に真琴がいて、眉を下げながら笑ってる。あぁまだ夢なのかな、嬉しいなぁ、すごく好き、真琴、まこと。


「う、わぁっ」
「へへ、真琴ーっ」

「ね、寝ぼけてないで、美月!」


ぎゅうぎゅうと抱き着けば私を離そうとしてくるから、なんだかちょっとせつなくなったけどゆっくり離れた。真琴のばーか、と言えばなんで?!と真琴はオロオロとしだすも、すぐに私の頭を撫でて「おはよう」と笑ってくれる。あぁ、素敵な夢だ。


「夢の中も、真琴は、やさし…」
「夢じゃないからね、ほら起きて」

「…げんじつ?」
「そう、現実。早く準備しないと、遅刻だよ」


ごしごしと目を擦ると、腫れちゃうから、と手を握られる。ぱっと目が覚めて、いつもより近い位置にある真琴の顔。そしてかぁあ、と赤くなる自分の顔。うわ、恥ずかしい。


「起きた?」
「おきた、ごめん真琴、早く行かないとハルのとこ、」

「いいよ、ハルには連絡しておくから」
「でも、」


私はなにをした。普段こんなこと話さないし、抱き着いたりとか以っての外だ。やばい、バレた、絶対バレた!私が真琴のこと好きだって、絶対バレた、どうしよう。


「いつもは寝坊しないのに、珍しいな」
「う、昨日の課題、わからなくて」
「聞いてくれればいいのに」

「だって真琴、部活で疲れてるじゃん」
「それを言うなら美月もだろ?渚が頼み込んでマネージャーになってもらったんだから」


岩鳶高校水泳部のマネージャーになって!と渚に泣きつかれて、仕方ないから入ってあげると言ったけどその翌日に凛の妹の江が入ってくれた。だから辞めてもいいかなって思ったのに、真琴に引き止められて続けている。家はお隣りさんで、父子家庭の私はよく真琴のお家にお邪魔してご飯をいただいてる、んだけど。


「真琴、どうやって入ったの?」
「ん?オレ、美月のお父さんから合鍵貰ってるから」


にっこり笑う真琴に、ぴたりと止まった。え、嘘。ちゃり、と私のお気に入りのキーホルダーに付けられたそれは、よく見れば昔真琴とお揃いで買ったキーホルダーで。


「今までは美月ちゃんと起きてたから入ることなかったんだけど、電話しても起きないから上がらせてもらったんだ」
「う、あ、ごめん」

「いいよ、それに久しぶりに美月の部屋に入れたし」


真琴は笑って、着替えたら下きてね、と部屋を出ていった。時間は、いつもならハルの家に着く時間。ごめんハル。でも、嬉しいな、真琴がいる。嬉しい。


「真琴ー、準備できたー」
「朝ご飯、食べていこう」
「え、遅刻しない?」

「大丈夫、走れば間に合うよ」


え、走るの?と嫌な顔をしてしまえば、真琴は笑って「オレが抱えて走ってあげる」なんて言い出すから、自分で走ると早口で言った、ら。真琴はふわりと笑って、私の頭を撫でた。う、わぁ…


「寝癖、ついてる」
「っ、ごめ」
「…可愛いなぁ、ほんと」


口元を押さえてくすりと笑う真琴に、え、え、と声を漏らすと、真琴はテーブルから体を乗り出して、私の頬に、キスをした。


「食べちゃいたい」
「?!」

「あはは、」
「からかったの!?」


む、とすれば真琴は急に真面目な顔をして、からかってないよと声も低くなった。ぴくり、肩が揺れる。


「オレのこと、男として見てる?」
「…なに、急に」

「オレは小さい頃から、美月が一番大事な女の子だよ」
「まこ、」

「だから寝言でオレの名前呼んでくれて、抱き着いてくれて嬉しかったんだ」


好きだよ、真琴の言葉に泣き出した私は、頷いて私も好きだと伝えた。
真琴の顔を見れば、真琴まで涙目で、ぎゅっと抱きしめあって、笑った。


大好きなキミ


(っ、遅刻!)
(、やばいやばい!)
(真琴、いくよ…っ、?!)

(…ご馳走さま)

20130927
なんっじゃこりゃなんっじゃこりゃぁあ。誰だろうコレまこちゃんのつもりだけど。
まこちゃん天使一番すき、でも凛ちゃんにもっていかれそうな予感がしている最終回まだ見ていない組。