ゆめ | ナノ


「静雄くんなら、月壊せる?」


深夜にいきなり押しかけて来たと思ったら、次に出た台詞はそれだった。
寝起きで機嫌が悪いうえに意味不明な言葉を浴びせられれば短気な人間じゃなくても怒りたくなるのは自然で。
それでも俺が怒鳴りもしなければ物を壊しもしなかったのは、泣きそうな顔が目に入ったから。


「夜なんか来なければいいの。ずっとお昼なら明るくて楽しくて、言うことなしだわ」


強がりにでも聴こえるそれは、無理に笑っているような表情を張り付けて、まるで怯えているような。



「…どうした、怖い夢でも見たか」

子供をあやす様に頭をゆっくりと撫でて落ち着かせてやれば、彼女は一回だけこくり、頷いた。


「静雄くんがいなくなっちゃうの。
遠い遠いところへ行っちゃって、池袋中探しても見つからなくて。
臨也くんのところにも行ったけど”知らないよ”って言われちゃった」


先程よりも瞳に映す不安げな色は濃くなって、長い睫毛が躊躇いがちに伏せられる。
俺の背中に這わせた指に、少し力が入って、シャツに軽く皺をつけた。
(どうせ替えはいくらでもある、気になんかしない。)



「…夢でまで臨也と会うな」
「…静雄くん、つっこみどころ違う」
「たかが夢だろ。現に俺はここにいるし、池袋を離れるつもりもねえ。…それに、お前を置いてどこにも行きやしない」


「…うん、」
「ほら、わかったらさっさと帰ってもう一度寝ろ。送ってってやるから。」
「今日は泊って一緒に寝ちゃ、だめ?静雄くんの傍なら、さっきみたいな夢、見ないと思う、から」


「……お前な」



遠に繋いでて

(ああ、だから俺はこいつから離れられないんだろうか)


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