erroneous answer [ 4/6 ]
どうすれば良いのかなんて、分からない。
今吉くんの台詞が頭から離れず、私を苦しめる。
花宮くんの良いおもちゃにされる?傷つけられる?そんなはずない。そう思うのに、何故心の底では疑っているのだろう。いじめられて卑屈になったから?あんなに優しい花宮くんを疑ってしまう私は最低だ。今吉くんの、これまで私を傷つけ続けた今吉くんなんかの言葉に惑わされて。
でもね、引っかかるの。みんなが謝ってくれたとき、花宮くんは笑ってくれなかった。表情を見れば確かに笑ってくれたけど、目が笑ってなかった。冷たい、氷のような目をしていたから。心の底では笑ってなんかくれなかったんだ。
でもそれはきっと私を心配して、裏があるんじゃないかって思ってくれたんじゃないかって。また私が傷つくんじゃないかって心配してくれただけなんだろうって、うぬぼれだと言われてもそう信じていたかった。
「なまえ先輩?」
「、ぁ」
学校からの帰り道。隣に花宮くんがいて、私の家を教えている途中だったことを思い出す。花宮くんが心配そうに私の顔を覗き込んできたので、慌てて笑ってみせた。
「どうしたの?」
「いえ、先輩がなんか悩んでるみたいだったんで……」
眉尻を下げ、大丈夫ですか?と聞いてくれる花宮くんに笑顔で頷いた。大丈夫だよ。花宮くんがいるから、私は大丈夫だよ。
けど花宮くんは苦々しい表情をして申し訳なさそうに呟くのだ。
「今吉先輩によびだされたこと」
「え?」
「黙ってればよかったですね。オレの失態です、すみません」
「な、なんで?」
花宮くんの言う失態の意味が分からず聞き返せば、花宮くんは俯いて小さく呟いた。
「先輩、震えてたし、あんなに怖い思いさせるなら黙ってたほうが良かったんじゃないかって……」
「はなみや、くん……」
怖かった。怖かったよ。でもね、違うの。本当は花宮くんが私のせいで傷つくのが何より怖かったの。すみませんと繰り返す花宮くんの頬は腫れていて。謝るのは、私なのに。花宮くんは悪くないのに。
「違うの……」
「先輩?」
「違うの」
目の奥が熱くなる。右手の手の甲で口元を隠し、必死に否定する。けど上手な言葉が見つからなくて、自分が情けなくてぼろりと涙が零れ落ちた。
「違うのっ……」
謝らなきゃいけないのは私なの。私のせいで傷ついた花宮くん。痛かったのは、辛かったのは花宮くんなのに私を心配してくれる優しい花宮くん。なのにね、私、心の底から花宮くんを信じることができないの。花宮くんが私を傷つけるわけがない。そう思ってるのに心の底では疑っているの。
「ごめんなさ、いっ」
謝った瞬間、花宮くんに強い力で腕を引かれ、そのたくましい体に抱きしめられる。痛いくらい強く抱きしめられ、息が詰まった。
「先輩は悪くない」
「っふ……」
「オレは殴られたことなんか痛くも辛くもない。だから大丈夫、大丈夫ですよ」
優しいね、花宮くんは。だから私は惨めになるの。花宮くんみたいに強くなりたい。優しくなりたい。けど私にはそうなる勇気がない。惨め。本当に、惨めな女。
「オレは最低なヤツです。先輩が思ってくれるほど優しくない」
「ぅ、く……」
「みんなが謝ってくれたって喜ぶ先輩に素直に喜べなかった。急すぎたから、何か裏があるんじゃないかって疑った。先輩と一緒に喜べなかった。オレは、最低なヤツなんです」
違うよ。嬉しいよ、私。そこまで考えてくれて、本当に嬉しい。やっぱり花宮くんは今吉くんが言うような人じゃないって思えるよ。
でもね、ダメなの。何を言われても今の私は疑っちゃうの。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
「ごめ、なさ……」
「謝らないでください」
「ごめん、なさい……っ」
「先輩、大丈夫ですから、オレは大丈夫ですから」
今になって頭が思いださせるの。あの、今吉くんの絶望したような顔を。
もしかしたら私は、とんでもない間違いをしているんじゃないかって、思ってしまう。
花宮くんの温かな体温を感じて、ひたすら涙を流す私には、花宮くんがそのときどんな想いをしていたかなんて理解できなかった。
私を抱きしめて優しい言葉をかける反面、冷たい、冷たい計算を頭のなかで繰り広げていたなんて、誰が分かっただろうか。
私は無知なまま、間違いに気付かずただ花宮くんに縋るしかなかった。
erroneous answer
誤答
2012/09/04
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