ネタ | ナノ




嘔吐氷室
2012/09/08 18:48

今日は珍しく氷室くんの帰りが遅い。同棲しだしてからというもの、氷室くんはこれまで以上に過保護になった。夜も守れるようになったから、長く一緒にいたいからと仕事が終われば直帰していたのだが、どうやら今日は飲み会があると上司につかまったらしい。時刻は0時。迎えにいったほうが良いのだろうかと考えるが、こんな時間にうろついたら氷室くんの機嫌が悪くなる。さて、どうしたものかと悩んでいたら、ピンポーンと間の抜けたチャイムが鳴った。ドアのスコープからちゃんと確認して、氷室くんだと分かった瞬間にドアを開ける。


「お帰りなさい、氷室くん」
「……」
「!?ちょ、どうしたの!?」


私の顔を見たとたん私のもたれかかってきた彼の体を必死に受け止める。キツイお酒のにおいで頭がくらくらしてしまう。珍しい、こんなに飲んだんだ。氷室くんお酒に弱いハズなのに。


「……ち、るい」
「へ?」
「きもちわるい」


掠れた声でそう訴えられ、慌てて氷室くんの顔を見れば酒気を帯びているはずなのに真っ青になっていて。こんな彼は初めて見るから私も慌ててしまった。


「大丈夫?トイレ行く?」
「ああ……」


ふらふらと覚束ない足取りでトイレへ向かう氷室くんの体を支えながら、トイレの扉を開く。便座を上げてやればすぐさま膝をつき、便器に顔を埋めるから必死に背中をさすってやった。


「ぅ、えっ…」


掠れた、苦しそうな声が聞こえる。吐きたいのにうまく吐けないのだろう。どんなにえづいても胃の中のものはでてこない。仕方ない、ほんとはしたくないけどこのままじゃ氷室くんがしんどいままだ。私は右手で背中をさすりながら開いている左手を氷室くんの前に持っていく。


「ごめん、苦しいかもだけど」
「ッ、う、」


人差し指を喉奥に突っ込み壁を押しやる。ひくりと喉が痙攣したのを見て手を離せば、一気に便器へ吐瀉していく。苦しげに声を漏らし、眦に涙を溜める氷室くんは不謹慎だがとても色っぽかった。一通り吐いたのか、氷室くんは荒い息を繰り返し、涙目で私に謝る。それに微笑んで軽く唇に唇を合わせた。


「汚いよ」
「氷室くんはどんなになっても綺麗だよ」
「なにそれ、」


ようやく笑ってくれた氷室くんは、私の肩に額を押し付け、小さく呟いた。「ありがとう」と。笑った私に気付いたのか、今度は氷室くんからキスをしてきた。苦い味だったけれど、不思議と嫌とは思わなかった。