「どうして、そんなことが言える?」
「だって……、だって、カルテは人間だから」
そう言って、フレンはゆっくりとカルテに歩み寄った。そして彼の胸元にそっと手を置く。
カルテはそれを無表情で見つめる。
「カルテは人間だから、確かにここに心があるんだよ。今はただ隠れているだけ」
「ぼくは、心をなくしたんだよ」
「たとえ心をなくしても、どこかに種を残しているよ。そしてまた新しい心が生まれる。
カルテの中にもちゃんとあるよ、心の種」
瞼を降ろし静かに言う彼女の言葉は、まるで唄のようだった。
フレンが、優しく、まるで一輪の花に触れるかのようにそっとカルテの手を取る。
彼女の手は冷たかった。
「フレンは、カルテの中にある心の種を育てたいよ。カルテに心を持ってほしい」
両手でカルテの手を包み込み、神に祈りを捧げるかのように静かな声で言う。
「だから、一緒に育てよう。心の種を。ひとりじゃ出来なくても、ふたりならきっと大丈夫だから」
「……どうして君は、ぼくに心を持って欲しいの?」
「そんなの、決まっているじゃないっ」
フレンの表情が幸せそうに綻ぶ。
「フレンは、カルテのことが大好きだから!」
大好き。
初めて言われた言葉に、カルテは妙な感覚に襲われた。
むずむずして、でも小さく灯る光のように優しい温かさを持ち、空っぽのなにかを満たしていく。
なんだろう、これ。
尋ねても答えは分からない。
でも、嫌な感じは少しもしなかった。
彼女の言う【心の種】を育てたら、この正体も分かるのだろうか。
幼いころになくした心をまた育てれば――。
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