フレン | ナノ






「今、睫毛が……」

 呟いて、まじまじとフレンを見つめる。
 ぴくり、ぴくり。

「!」

 再び、睫毛が揺れた。
 見間違いではない、確かに睫毛が動いた。
 カルテは立ち上がり、フレンを見つめたまま数歩後ずさった。

「……ん」

 やがて、フレンの口から吐息のような声がかすかに聞こえた。
 そして、
 瞼がぱっと上げられた。

「…………」

 身体を硬直させ、フレンを見下ろす。
 フレンは暫くぼんやりとした後、おもむろに両腕を天井へ突き出すと明るい声で、

「んん〜! 充電完了!」

 そう言い放った。
 次いで、無表情で見下ろしているカルテに気付くと、丘の花が一斉に咲くかのように、表情を明るくした。

「あなたがカルテ? 初めまして、フレンの名前はフレンっていうの!」

 澄んだ声で笑顔を浮かべ挨拶をしてきたフレンを、カルテは無表情で見つめる。
 それを不思議に思ったのか、フレンはちょこんと首を傾げた。 
 そして何を思ったのか、ぱんっと両手を合わせると、カルテの手をとって上下に激しく振り始めた。

「なにを……」
「これからよろしくね、カルテ!」
「よろしくって、なんのこと?」

 淡々とした声で尋ねると、フレンは笑顔のまま平然と言い放った。

「ヴァルト様の願いを叶えるため、フレンはカルテと一緒にいさせてもらうの!」
「博士の、願い……?」

 カルテが無表情のままぽつりと漏らすと、フレンは大きく頷いて見せた。

「それって一体……」
「それは秘密っ」

 笑顔を崩さないまま明るい声で言う。
 カルテはなおも無表情を保ち、笑いかける桃色の瞳を見つめた。


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