「カルテ、カルテ! いろんなものがいっぱいあったね! 楽しかったね!」
「別に楽しくない」
平然と言ってみせても、フレンは笑顔を浮かべたままカルテと手を繋いで歩く。
どうやらよっぽど楽しかったらしい。
「あの子って確かヴァルト博士のとこの子よねぇ……」
ふと、聞き覚えのある名前が聴こえた。
声のした方を横目で見ると、村人が数人集まり、こそこそと話していた。
しかし、その声はカルテまでしっかりと届いている。
「博士が亡くなって、一人になってしまったんでしょう? 可哀相に……」
「でも、あの子には心がないって聞いたわよ?」
「あぁ、幼いころに両親を亡くしたらしいから……」
可哀相に。
口をそろえ皆が言う。
自分は可哀相なのだろうか? どうして、可哀相などと思うのだろうか。
自分は、自分を可哀相とは思わない。
人はいつか死ぬ。それは世界の理(ことわり)だ。
自分はそれを理解しているつもりだ。
でも、周りの人間から見たら、自分は可哀相な子なのだろうか。
カルテは無表情のまま、同情の眼差しを向けてくる村人の横を通り過ぎる。
なんとなく、この場から早く立ち去りたい気がした。
「カルテは可哀相じゃない!」
聞き覚えのある澄んだ声に、カルテは足を止めた。
いつの間にか繋いでいた手が離されている。
振り向くと、フレンが村人たちの前にいて、睨みつけるように彼女たちを見上げていた。
「フレン」
「カルテは可哀相なんかじゃない!」
名前を呼ぶも、彼女には届かなかったらしい。
声を上げ、村人にせまる。
村人は困惑した面持ちで、フレンを見下ろしていた。
「カルテは一人じゃないもん! フレンがいるもん! だから全然可哀相なんかじゃない!」
小さな身体で懸命に声を張り上げる。
「それに、カルテにはちゃんと心があるんだから! 勝手なこと言わないでっ」
目を潤ませ、食らいつくように声を上げるフレンの手を、カルテは無表情のまま掴んだ。
戸惑う村人に無言で頭を下げた後、その場から逃げるように歩き出す。
フレンは何も言わずに着いてきていた。
互いに無言のまま家へと続く道を歩く。
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