フレン | ナノ






「これが、悲しい……?」
「そうだよ! カルテにはやっぱり心があるんだよ!」

 満面の笑みを浮かべて「良かったね、良かったね」と繰り返すフレン。
 どうして彼女がそんなに嬉しそうなのか、カルテにはわからなかった。
 無表情で喜びを浮かべるフレンを見つめる。

「あ、フレンのことは気にしないでねっ。この料理はもう下げちゃおうか」
「……待って」

 フレンがスープの入った皿を持ったまま不思議そうにカルテを見る。
 カルテは無表情のまま、そっとフレンの手から皿をとった。
 そして、再びスプーンでそれを掬い、飲み始めた。
 フレンがきょとんとする。

「えっ……、あっ、お、お腹こわしちゃうよ!」
「捨てるのは勿体ない」
「でも……!」
「……誰でも、失敗することはあるって、前に博士が言っていた」

 フレンの瞳が大きく見開かれる。
 カルテはスープに目をやったまま、スプーンを口に運ぶ。
 やはり、とても美味しいとはいえない。
 でも、

「……このスープは、温かい」

 胸がほっこりと温まる。
 何故かはわからない。
 カルテは次々とスープを口に運んだ。
 やがて、最後の一口を食べ終わると、静かにスプーンを置いて不安げに見つめてくるフレンを見る。
 そしておもむろに口を開くと、

「ごちそうさま」

 たった一言、無表情のままで告げた。
 フレンが目を丸める。
 次いで、俯いて肩をぷるぷる震わせたかと思うと、勢いよくカルテに抱き着いた。
 椅子ごと倒れそうになるのをどうにか押さえ、自分の胸に顔をうずめるフレンを見下ろす。

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