小説 | ナノ




信州国境付近ー


「いっただきまーす」


豪快に傍を啜る少女。7杯目ということから大食いのようだ。


「7杯目ですよ・・よく食べますねあの方」
「ああ・・」



少女の姿を見て才蔵は思った。手も足も擦り傷だらけで呼吸も速い。
食べるゆとりがなかったのか。かなり気を張っていたように思える。
それを表にださないのはけっこうな精神の持ち主か、あるいはそうせざるを得ないなにかがあったのか。


「ごちそうさま!」
「早!」
「!あら小食ね」
「テメエが大食いなだけだろ」
「そのテメエってのやめてくれない!?
アタシは伊佐那海って言うの!アンタの名前は?なにしてるひと!?」


いっきに質問攻めに合うがさらりと答える。どうやらテンションについてけないようだ。


「・・才蔵。侍だ」
「才蔵!?じゃあ略して才ちゃんね!」


それだけ言うと今度は東雲の方へと向きなおす。
才蔵が『殺すぞこのアマ』とかガン飛ばしてきたがまったくのスルー。


「よろしくね!えーと・・」
「東雲です」
「じゃあ東雲だね!」

握手を求められるが目を逸らす。

「私小汚い方とは握手致しませんの」
「こぎ・・!?」


軽くショックを受ける。


「アタシだって好きで小汚くなったわけじゃないもん」


もっとなにかうるさく言われると思っていたが、以外なリアクションに戸惑ってしまう。東雲はため息を吐き、伊佐那海の手をとった。


「東雲?」
「動かないでくださいまし」


言われたとおりにする。蒼白い光が放ったかと思えば伊佐那海の傷が癒えていた。


「え・・?」
「勘違いなさらないでくださいね。兄様の傍においときたくないだけですから」

「東雲!その力はあんま使うなって言ってんだろ!?」
「大丈夫ですわ兄様!ね?」


とんとん、と肩を叩かれ振り向けば満面笑みの伊佐那海の姿。


「アンタほんとにすごいのね!」
「だから・・なんですの?」
「治してくれてありがとう!」
「・・調子狂いますわ・・」


ぼそりと呟き、席をたつ。


「食ったらとっとと行くぞ!
・・と、落ちそうだぞ それ」
「あ!」


簪がとれかかっていることを教えてやる。


「やだ!落としたら大変!」


簪の止め具を刺しなおす。少し光った気がするのと同時に才蔵に嫌な予感が駆け巡った。



02



「うえ〜、なんでこう山道ばっかなの〜
ちょっと待ってよ才蔵〜」
「案ずるなこの辺りから上田だ
ここまでくればもう大丈夫だろう」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってよ!
もう少し付き合って!アタシお城の入り方なんて分からないし!」
「城?城ってー・・上田信州上田城か!?」
「う・・うん」


嫌な予感は当たったかもしれない


「冗談じゃねえ、面倒はゴメンだ!帰る!」
「才蔵!」


進めた足の動きを止める。木の枝に立っている数人者の気配。ひとりは少年だった。


「帰・・さん・・上田城がどうとか・・お前ら・・怪しい・・何者!?」
(コイツらもしや・・)
(兄様の表情が・・この方達はまさか・・)
「怪しくないわよ!アタシは出雲の巫女です!!」


伊佐那海が叫ぶ。予想が当たった返事が返ってきたのだった。


「神聖な巫女・・がなぜ暗殺者の伊賀者・・と!?
伊賀者は・・みな外道だ」


ブチッ


「やはりな
うるせえんだよ!集団でゾロゾロきやがって!腰抜けの甲賀者が!!」
「ちょ、どうしちゃったの才蔵ってば!」
「・・兄様は甲賀者が大嫌いなんです。私もですが」
「えええええっ!?」


血の気が多いところは同じと見える。剣を交える姿をじっと見つめる東雲


(・・あの甲賀者、兄様とやりあえるなんてなかなかやりますね)


「・・・んもうっ」


隣でまたブチッて音が聞こえた。木の陰に隠れてた伊佐那海だったがふたりのやりとりにキレてしまったらしく踏ん反り返り声を張り上げた。


「いい加減にしてくんない!?
アタシ真田幸村って人に会いに来たんだけど!!」


やっと部屋へ通され会えることになった。
暫く待てば大声とドカドカと歩く足音が聞こえる。


「オイオイ、厄介ごとじゃねえだろうな
なんで俺名指し!?」
「ーーー若!!」
「まあいいや 面を上げよ!−−−って平伏してねえじゃないか」


振る舞いがまったくもってなってない。柄が悪い。想像していたひとと違う。


「な・・なんですかあれは・・殿ともあろうお方が・・!」


東雲は信じられなかった。


「お前が出雲の巫女か
ではあっちのが・・」
「・・!?」

「・・あ・・ああ・・
ようやく会えました!どうか助けてください!お願いします!」
「うむ。まずはなにがあったか話してみよ」


話は聞いてくれるみたいでそんなに悪いひとではないのかと思った。



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