小説 | ナノ




「兄様?どこにいらっしゃるの、兄様!」
「なんだ東雲」
「あ 兄様!また木の上に・・危険ですわお止めくださいまし!」
「お前は小言を言いにきたのか」
「そ、そのような・・滅相もございません!」
「ならなんだ」

不機嫌にさせてしまったことにより慌てて訂正する

「また組み手のお相手をお願いしようと思いまして・・」

そう言えば笑って頭をぐしゃぐしゃ、って撫でてくれた。皆は才蔵のこと怖い、近寄り難いって言うが自分はそうは思わない。家族だからというのもあるがちゃんと才蔵のことを見もしないし知りもしないからだ。

だって彼はこんなにも優しい。


01


「・・金がねえ・・」
「兄様。何度見ても同じですよ?」


掌の上で財布をひっくり返しそうぼやく才蔵に東雲は言う。
銀貨をヂャラッとならし2人同時にため息を吐く。


「あれなに?」
「しっ見ちゃだめ!たかられるよ!!」


この言葉にぴくりと肩を揺らす。自分ならまだいいが才蔵に言われたとなれば話は別。


「兄様がそのようなことするわけありません!そこになおりなさい!」
「東雲!」
「・・兄様・・」


才蔵に止められ我にかえる。みるみるうちに顔が赤く染まっていった。


「も・・申し訳ありません・・」
「しっかし、このままじゃ餓死決定だな
また戦いで稼ぐ・・っつーか最近は戦えねえし、こうなりゃどっかの大名の家臣にでもなって・・」
「兄様にそんなことさせられません!ご自分を安く売らないでくださいまし!
私(わたくし)が踊り子として・・」
「お前動けんの?」


ぐうきゅるるる・・


才蔵の言葉にお腹が反応する。もう丸3日何も口にしていない状態だ。しかも今日は天気がよく太陽が眩しい。こんな中このような状況で動けば倒れるに違いない。


「兄様にご迷惑はかけられませんわ・・」


だが身体がふわふわする。水分不足でもあるだろう。


「無理すんじゃねえよ」
「兄様・・」
「倒れられたら余計面倒なんだからよ」
「・・・・・・」


ああ、兄様・・
その正直すぎるところが東雲は心配でございます・・
なんて心の中で思ってみる。しかし本当にどうしたものか。


「ハアッ、ハッ、・・ハアッ」


茂みから人の気配がする。


「・・兄様。誰か、・・来ます」
「あ?」


姿を見せたのは女の子だった。そのまま才蔵の肩に倒れこむ。同時にクナイが2人を襲った。


「きゃあああ!!」


少女は固く目を瞑る。一向に来ない痛みにそっと目を開けてみれば地面に突き刺さっていた。


「・・兄様には触れさせない」


バチバチと、周りに結界がはっている。どうやらそれに弾かれたみたいだった。


「んだ、テメエら?
女相手に鬼ごっこか?あ!?」
「・・・お前には関係ないがその女を見たのが不運・・消えてもらう」

攻撃する体制をとる。


「物騒だねえ。目撃必殺!?」
「その通り!」


一斉に仕掛けてきた。才蔵の目が変わる。
剣を手にすれば


「オン マリシエイ ソワカ!」


唱えた瞬間剣が光を放つ。向かってきていたクナイは宙で動きがビタリと止まった。
『奥義 天唾返し!!』
剣を一振りすれば敵の方へ放たれる。体中に攻撃を受けた刺客はその場に崩れ落ちた。


「・・ったく腹減ってるのによけいな体力使っちまった」
「まったくですね
・・それとあなた!いつまで兄様にひっついてるおつもりですか!さっさと離れなさい!!」


東雲は引き摺り下ろそうとすれば大声をあげ暴れだした。


「きゃー!なにすんのよおっ」
「馬鹿!東雲!今下ろすから待ってろ!!」


騒ぎながらもゆっくりと少女を地へ下ろす。震えてるみたいだった。


「あー、怖かった、か」
「すっごーい!アンタらなに!?めちゃくちゃ強いんじゃない!!
もしかしてかなりの手練!?」


別の意味で震えてたみたいだ。正しくは興奮していた。才蔵と東雲、ぽかんとした表情を見せる。


「もしかしてって見たろ?今のワザ あ!?
それより先に礼だろ?礼!」
「このぐらい強いなら女の子ひとり守るくらいお手のもん!?」
「ひとの話聞いてんのか、コラ」


まったく話を聞いてない少女。呆れ果て、その場を去ろうとする。


「あー、まあいいや
この先気ィつけてなじゃ」
「あーっあーっ」


咄嗟に才蔵の服を掴む少女。


「なんだ離せよ」
「兄様に触らないでくださいまし!」
「さっきの奴ら見たでしょ!?
助けてやろうと思うのがフツーでしょ!情けない!」
「「情けない!!?」」


才蔵と東雲の言葉が重なる。


「だからアタシと一緒に信州上田まで行かない!?」


「「は!?」」


またまた重なる。それに少女はプッと吹き出した。


「仲いーんだね!アンタ達!」
「あなたには関係ないじゃないですか。信州上田の話・・お断りさせて頂きま」


ぐううう


「アハハ!お蕎麦おごってあげるよ?」


(なんなんですの、この女!失礼にも程があります!!)



こうして才蔵と東雲はお蕎麦につられ、行く用事もない信州上田に行くことになってしまった。
変な少女と一緒に。



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