( ハニーオレンジの星に告ぐ )
俺、アリババ・サルージャは今機嫌が悪い。なんでかと言うと俺の師匠が修行をほっぽりだして飲みに行ってしまったからだ。この朝っぱらから。師匠の酒好きと女好きにはほとほと呆れる。‥まあ、なんとなく、分からんことはないが‥
アラジンはヤムライハさんとだし、モルジアナはマスルールさんとなにやら楽しそうだし。俺も他のひとにお願いしてみればいいのかな、なんて考えがでてきたけど止めた。なんとなくある意味で。
「‥ふ!」
自分だけだとなにしていいか分からないのでとりあえず振ってみる。修行になってるの、か?これ。・・なんかもういいや。今日は止めてアラジンの所にでも行こうと、剣をおさめ、踵をかえした時だ。
「ババくんババくん!」
「ババ違うっ‥ってあれ、確かに声がしたと思ったんだけど‥」
ふと、聞こえた声に突っ込みの反応を見せるが周りには誰もいなかった。ついに幻聴まで聞こえるようになってしまったのか。頭を抱え、うー、と唸る声をだせば、また声。今度ははっきり、しっかりと聞き取ることができた。声がしたのは上。だがそこは木しかない。不思議に思い近づく。
「こっちこっち!ババくん!」
見つけたのは木に登っているなまえの姿。
「何やってんですか!」
「降りられないの。助け‥」
言葉の途中でなまえは手を滑らせた。下まで一気に急降下。どたーん、と派手な痛い音にアリババは目を瞑った。
「ナマエさん!大丈夫ですか!?」
「うん‥この子は無事だった。」
「‥猫?」
見せられた子猫にアリババは目を丸くする。なまえをみれば顔や身体中擦り傷だらけで。服が露出が高いからなおさらくっきりと跡が見える。見つめていたアリババになまえは口に指をあて苦笑した。
「木に登ったこと、あのひとには内緒にしてくれる?」
「あのひと‥ああ、ジャーファルさんですね
」
猫を助けるためとはいえ、木に登るなんてとんでもない。説教だけでは済みそうにない。大変なんだな。
「でも喜んでますよコイツ」
にゃ〜と、頬ずりしてくる。自然と笑みがこぼれた。あ、あんなにひっついて羨ましい。じとっと食い入るように猫を見つめてたのか我にかえればきょとんとした目とあった。
「あ、名前決めたんですか?」
「まだなの。ババくんなにかいいのある?」
「かっこいいのにしましょうか!」
「‥この子メスだと思う。」
この一言で静かになる。こっそり飼うことになりそうだし、名前は自分で決めたほうが安全と見える。
「この猫ちゃんの件はわたしたちの秘密ね!」
「‥は、はい」
指を絡めてゆーびきーりげーんまーん、と約束をした。指と指から伝わる熱に溶けてしまいそう。きっと俺の顔はまっかっかに違いない。そういや、なんで俺この人に『ババさん』なんて呼ばれてんだろ。笑顔が眩しくて言葉を発することができず俺は聞くことを忘れてしまった。
この猫はナマエさん直々の命名で『ノイズ』となった。
--------------------------
(ちょ!なんですかその傷は!)
(!なんでもないですよ)
(なんで目を泳がすんですか怒らないから話してください)
(いたたたっ頭掴んでる!怒ってるじゃない!)