マギ | ナノ

( 白々と朝に踊れ )

朝。まだ誰も起きてない早い時間。
少女は背伸びをし、庭におりた。



「‥いい天気。あら。ルフたちが騒いでいるわ。どうしたのかしら‥」


困惑した顔つきでいたが微笑み、静かに歌いだした。合唱するように小鳥たちの囀りが聞こえる。さわさわと風に揺れる木々たちも。

「みんなで歌いましょう」


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「綺麗な声‥」
「アラジンどうした?」
「アリババくんどこからか綺麗な歌が聞こえないかい?」

アリババと呼ばれた少年はアラジンからの言葉に目を閉じ、耳を傾けてみる。


「‥ほんとだ」
「ね!?」
「聞いてると癒やされるな。なんか力がみなぎってくるっていうか。モルジアナかな?」
「モルさんはもう少し低めだと思う。」
「そっか、じゃあ誰だ?」

「ルフの踊り子。」
「‥‥‥!?」

聞こえた声に反応して身体を振り向かせる。そこにいたのはジャーファルさん。シンドバッド王に仕える八人将の一人。


「ジャーファルさん!」
「驚かせてしまい申し訳ありません。彼女は一日幸せに過ごせるよう祈りながら歌っているのです。それがルフの踊り子である彼女の役目の一つ。」
「へー‥」

「ジャーファル!」


丁度よく、今し方話していた本人の澄んだよく響く声が聞こえジャーファルはああ。と声を発した。


「紹介しましょう‥彼女がルフの踊り子‥この国のシンドリアの踊り子でもある‥」

そこまで言いかけジャーファルは目を見張った。目の前にいる彼女は、格好が神聖な踊り子が着るものではない。自分は官服に着替えてから顔をだせと言ったはずだ。彼女が歩けばシャラン、と身につけた金属が綺麗な音を鳴らす。


「あなたが”マギ”様?」

嬉しそうにそう言うなまえに手をとられ、至近距離で見つめられたアリババは頬を染め視線を斜めにずらした。

「あ‥あの‥”マギ”は俺じゃなくてです‥ね」

隣にいるアラジンに視線をおくる。それに気がつきなまえが手を離せばアリババは軽く息を吐いた。アラジンにあわせるように膝を屈む。

「‥マギ、様?」

こんな小さな少年があのマギ様?信じ難いがあのジャーファルも頭をさげてる。見た目じゃない、ということなのか。
そしてそのジャーファルはいまにもとってかかりそうなほどの雰囲気で。予感は的中し、ジャーファル得意の小言が爆発した。


「あれっほど!その格好で出てくるな、と言ったでしょう!?」
「まあジャーファル。なにを怒っているの?」

ジャーファルは震えながらも指をつきつけ声を更に張り上げた。

「‥っあなたのその格好!女性ともあろうお方が‥胸と腹をしまいなさい!胸と腹を!そして脚も!官服はどうしたんですか?渡した筈です!」
「あれ?窮屈なんだもの。きらーい。」
「な‥っ!?な、なな‥」


つん、とそっぽをむくなまえにジャーファルの怒りは膨れ上がるばかり。そんなジャーファルを気にする様子もなくなまえはアラジンとアリババと自己紹介も兼ねて仲良くしていた。


「マギ様、アリババ様。このあと、お時間の方は‥?よければお話しませんか?」
「やだなあ、様なんて‥敬語はやめましょうよ。俺の方が下っ端なんだからさ。」


ルフの踊り子は存在が貴重であり触れることは許されない。彼女はとても神秘な力を秘めており、彼女が踊る舞には幸せになれる、と。幸福が訪れると。もう、有名なもので。彼女の舞だけを見るために訪れるという観光客も増えたと言われる。それ故に狙う輩が存在するからシンドリアで保護を受けてるため他国へは行ったことはない。アラジンも分かっているのか少しいつもとは雰囲気が違っていた。

「僕もマギ様なんて呼び方されるのは好きじゃないな。呼び捨てでかまわないよ。なまえお姉さん。」
「‥そうですか?ではわたしのこともナマエと。こちらへどうぞ。」
「あ‥!待ちなさいナマエ!まだ話は終わってませんよ!?」


なまえは完全ジャーファルを視界にいれてない。こんなのは日常茶飯事なのだが、こうも毎日では身がもたない。だがそんなことあの彼女は知る由もないのだろう。なんの悩みもなさそうな明るい声にジャーファルは泣きたくなった。

「‥お転婆娘め‥」

ジャーファルはそうぼそりとつぶやき頭を抱え込みながら前髪をくしゃりと掻きあげた。