100000 | ナノ



薄暗い路地裏で男と女の声がする。女の、悲鳴に似た声と布の擦れる音。ぐちゅり、と卑猥な水音。男は壁にもたれかかり女に自分のペニスを咥えさせ、奉仕をさせていた。絶頂が近いのか先っぽを咥えていた女の頭を掴み、奥へ押しこんだ。女の表情が苦しさで歪む。じたばたと足をもがき抵抗するが、意味のない行為だ。


「おら飲めよ」
「ひ、ぐっ・・」


つん、とした生々しい臭い。脈打ちながら口の中いっぱいに広がる精液。吐き出したかっがなにをされるか分からない恐怖心で、なんとか飲み込んだ。・・気持ち悪い。

「壁に手をついて尻だせ」
「え・・」


わたしの返答もまたずに無理矢理壁に押しつけられ、蜜で濡れた下着を脱がす。アナルまでもが見える恥ずかしい格好に耐えられず目を瞑った。身体が震えてるのが分かる。男は自分の指に唾液をつけ、膣内を拡げるように指を挿入した。ごつごつとした骨格と太さに身体中が跳ねる。三本の指をばらばらに動かされ、あまりの気持ちよさに腰が浮いてしまっていた。
ずるり
一旦指が抜かれる感覚に疼いた熱がひいていく。、がすぐに今度は指とは違うものが挿れられようとしていた。女はすぐに理解した。性器だ。

「、や!それだけ、は・・!」


止めて、と必死に懇願するが、男は聞きいれてはくれなかった。ずん、と腹部に奔った鈍い痛み。それは挿入された証でもあった。律動がはじまり、響く水音に耳を塞いだ。気持ち悪い。気持ち悪い。なんでこんな目に合わなきゃいけないの。この行為も、好きなひと以外に犯されて感じてしまっている自分にも。はじめてがまさか強姦など。しかも好きなひと以外のひとがはじめての相手になるなんて。視界が涙でぐしゃぐしゃに滲んだ。

「ひっ、、・・トラ、ン、クス、」


愛しい人の名前を口にした瞬間、男がぴくりと反応を見せた。気に入らなかったのか、アナルに指が挿れられた感覚に身体が悲鳴をあげた。

「うあ、」


なんて変な感覚。二つの穴を同時に攻められ、いつしか快楽へと変わっていったことに気がついた。男は女慣れしているせいか女の身体を知り尽くしていた。どこを弄ればいい声で鳴くのかを。この男にイかされるのは屈辱だが、身体は素直に悦んでいる。男は淫乱、と耳元で囁いてきた。全くその通りだ。吐き気がする。こんなじぶん、殺してしまいたい。あまりの惨めさにがり、と唇を噛みしめた。血が溢れ、口の中が鉄の味になる。これ以上声をだしたくなくてこらえるように唇ではなく自分の手の甲を噛んだ。それはもう、深く深く。どうなろうとおかまいなしに。男はひたすら腰をふる。本能のままに。柔らかな腰を掴み自身を打ちつけた。豊満な女の胸が上下に揺れ動く。溢れすぎた愛液を掻きだすようになかをかきまわされ膣内がきゅう、と締まる。いまので男からう、と呻いた声が聞こえ締めつけたことにより射精を早めたのだろう。激しい。激しすぎて壊れてしまいそう。
ぽたり。男の汗が背中へ垂れる。腰を掴む手に力がはいる。さらに深く挿入された。子宮を刺激され、深々と抜き差しされ、もう頭が真っ白だ。ぎりぎりまでペニスが抜かれ、根元まで一気に挿れられあまりの刺激に身体が仰け反った。


「や、ああっ」
「だすぜ」


男は精子を注ぎ込んだ。扱き、いってきたりとものこさぬよう精液を膣内へとだす。抜き出せばはいりきらなかった精液がごぽり、と音をたて溢れ出た。


情事後、すぐ男は去っていった。退屈しのぎにはなったと、それだけ言い残して。なんて酷い男だったのだろう。たまたま見つけたのが私で襲いやすかった。私だけ我慢すればもうあの人と会うことはないだろう。忘れるんだ。だけど、悪夢はこのあとすぐにやってくる。


「なまえちゃん今月ちゃんと生理きただ?」
「え?」


母・チチの言葉に目を丸くする。すぐぎこちない笑みを浮かべた。気づかれない程度に。


「だ、大丈夫!ちゃんときたから!」
「なら安心だべ」


チチは笑みを浮かべ鼻歌まじりに台所へと消えていった。きたなんて、・・本当は嘘だ。予定日を一ヶ月すぎても生理はこず、そのまま二ヶ月がたった。三ヶ月めと、さすがに不安になる。どうしてこないんだろうと必死になって考え、ある結論へと至った。妊娠。最近のことを思い出してみれば、嘔吐や倦怠感、そして生理がこない。当てはまるものばかりだ。わたしはドラッグストアで妊娠検査薬を購入した。尿をかけ、少し待てば結果がでる。どうか、間違いでありますように。
だけど結果は陽性。目の前が真っ暗になり、ぐらぐらと揺れる。まさか。そんな。あれ一回きりのことだったのに。


「・・・っ」


ぼたぼたと涙が頬を濡らす。うそだ。うそだ。うそだ。そう思っても事実は変わらない。私のお腹には命が宿っている。トランクスのじゃない。別の男の。なまえは声を殺しながら泣いた。




「別れようトランクス」
「は・・?なんでいきなり、」


俯くなまえに眉をひそめるトランクス。


「もうトランクスと一緒にはいられないの・・」
「なんだよそれ。それだけじゃ意味分からないよ」


これ以上なんて言ったらいいのか、分からない。だって自分自身もどうしたらいいのか分からない。ただひとつはっきりしていることは自分にはトランクスの恋人だと名乗る資格はないってこと。


「なまえ!」


ぎゅ、ってトランクスが手を握って見つめてきた。酷く困惑した顔で。それだけで私の胸は酷く痛む。握られた震えるトランクスの手を優しく解く。


「もういいから放っておいて・・!
・・っう、ぐ!げほっ」
「なまえ!?」



口元をおさえ、その場にうずくまるなまえにトランクスは駆け寄った。白い肌がさらに青白く、顔が真っ青。そういえば以前からなまえは細かったがここ数日で痩せた気がする。


「とにかく病院へ行こう!な!?」
「・・だい、じょう、ぶ、だから、・・」


トランクスの手を払いのけた。病院へ行けばトランクスに知られてしまう。トランクスには知ってほしくない。


「さよなら・・っ」


地を蹴ってその場から走り去った。声擦れてなかったかな。ちゃんと上手く笑えてた?ぐちゃぐちゃでもうなにもかも嫌になって、こんな顔のまま家には帰れない。途中で見つけた人が通ることのない路地裏はあの行為を鮮明に思い出させた。


「・・んっ、・・!」


吐き気が襲い、なんとか堪える。ゆっくりと腰をおろし壁に寄りかかる。身体を縮こませ太ももの間に顔を埋めた。暫くそのままでいれば薄暗くなり自分に影が重なった。顔をあげればそこにはあの男がたっていた。


「なんだまたお前か。」
「・・・っ!」


髪をなびかせてわたしを見下ろしていた。なんで。もう会わないと思ってたのに。


「ちょうどいい」


男はそう言って私に近づき、唇を耳元に寄せた。



「俺さ、お前とじゃねえとたたねえまたいなんだよな。だからさあ・・また相手してくれよ」



なにそれ。馬鹿じゃないの。気がついたら男の頬を叩いていた。



「ふざけないで!・・もういい・・どこかへ行ってよ・・行って!」


涙でぐしゃぐしゃにして睨んだ。これ以上なにも傷つきたくなくて塞ぎ込んだ。しん、と静かになる。だけどすぐチッ、て舌打ちとどかり、となにか聞こえてきた音。隣に並ぶように男が座っていた。なまえは目を見開き驚いた。なんで?自分はどこかへ行って、と言ったはずなのに。


「な、なにしてるの」
「あー?お前がぴーぴーうっせえからだろうが!」
「な!?もとはと言えばあなたが・・!っ、うえ・・っ、ひぐ、っ」

この人の前では決して泣かないと決めたのに。どうして、こんな、簡単に。
ふわり。男の掌がなまえを包みこんだ。あんな最低なことをした人が。


「なにするの、やめてよ」
「いいから泣け馬鹿野郎」
「あなたのせいよ・・わたしがなにもかも失ったのはあなたの、・・」

涙で滲んだ視界が真っ暗になった。男に目元を隠されていて自然と目を閉じる。


「こんなときだけ、優しくすんなあ・・!」


心が痛いのはきっと。傷つけてしまった最愛の人よりも今、抱きしめてくれる彼が愛しい、と思った自分はなんて醜い女なのでしょうか。