彼は天才魔導師だ。普通の魔導師にはできないことをいとも簡単にやってのけてしまう。だから羨ましいけど、そんなこと口にはしない。するもんか。羨ましいと言ってしまえば楽なのかもしれない。だけどわたしは、きっと、羨ましいんではなくて、悔しいのだと思う。幾ら天才といえど皆が知らない影できっと努力しているに違いない。
「なんだ。コドル5はまだそんな魔法しかやっていないのか」
嫌味満開な声に椅子に座っていたわたしは顔をあげた。そこにいたのは有名な天才魔導師のティトスだった。不満気に、声を洩らす。彼、ティトスとはつい最近知り合いと呼べる中になった。
次の日も、その次の日も、彼はわたしのもとへ嫌味とともに姿を現した。だけど日に日に違っていったのは少しずつだけど私にわかりやすいように魔法を教えてくれたことだった。あの彼が優しい。親切心かもしれないのだけれで私には不思議でしょうがなかった。そう思った次の日、彼に聞いてみた。
「天才魔導師様がほんとはなんの用です?」
この言葉にティトスはぱちぱちと瞬きを繰り返していた。あ、まずかったかな。折角教えてくれていたのに。けれど嫌がらせかもしれないと思えてならなかった。そんな彼におかまいなしに私は言葉を続けた。
「わたしなんかと仲良くしてると蔑んだ目で見られますよ」
それだけ言えばまた魔導書へと視線を戻す。それにティトスは少しだけ、眉を吊り上げ反応を見せる。・・なんだよ、それ。普通は僕に話しかけられれば誰もが嬉しがるはずなのに、彼女はその部類ではなかった。最初は戸惑いを見せているものの今では天才魔導師様がわたしなんかといると、・・ばっかだ。
「なまえは僕が嫌いか」
ぽつりと、言葉を発すればなまえは魔導書を閉じ、無表情のまま、こちらを見た。
「嫌い・・ではないですが、疑問はあります。なぜあなたみたいなお方が普通の、いえコドル5程度の魔導師に構うのかと。」
なまえの瞳があまりにも真剣で。綺麗なコバルトブルーの瞳がゆらゆらと僕の瞳を捉えた。どうしてだろうか。吸い込まれそうで逸らすことができずにいた。
「なんだ。お前そんなことも分からないのか」
「はい。分かりません」
「・・なら、一回だけ言ってやるからちゃんと聞けよ!?」
「・・はあ」
わたしはほんのり頬を染める彼を見ながらその一回だけ、という言葉を待った。なんだろう、と少し胸を踊らせていると夕陽に照らされてできた自分の影と彼のが重なった。彼は私を抱きしめる。柔らかな唇が触れ合って、すぐに離れた。思考回路がついていかない惚けているわたしに彼は笑い、
「なまえが好きだ」
愛しそうにそう告げた。
10万打企画/みつばち様